試合前のグラウンド。わが子が地面に座って、ぐーっと前屈している。「ちゃんとストレッチしてえらいね」と思っていたら、コーチが「今はそれじゃなくて、動きながらのアップ!」と声をかけた——。え、ストレッチって、やればやるほどいいんじゃないの?サッカーを自分ではやってこなかったパパ・ママにとって、「アップ」と「ストレッチ」の違いは意外と知られていないポイントです。この記事を読み終えるころには、運動前と運動後で、どっちのストレッチをいつやればいいか、そして成長期の膝・かかとの痛みにどう向き合えばいいかが、迷わず分かるようになります。
ストレッチは「いつやるか」で種類が変わります。運動前は動的ストレッチ(もも上げ・足振りなど、動きながら体を温めるもの。ラジオ体操のイメージ)、運動後とお風呂上がりは静的ストレッチ(ぐーっとゆっくり伸ばすもの)。順番はこれだけ覚えればOKです。そして膝やかかとの痛みは我慢させない・続くなら整形外科へ。具体的なメニューは本文で4つ紹介します。
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。現場では、練習前のアップに毎回10〜15分かけています。理由は単純で、体が冷えたまま走り出した子は、動きが硬いだけでなく、転んだりひねったりしやすいから。逆に、練習前に座り込んでぐーっと伸ばす「昔ながらのストレッチ」を長々やっている子は、体が温まらないまま一本目のダッシュに入ってしまいます。実際、寒い時期の練習で、アップを省いた子が最初の5分でふくらはぎを痛がった場面を見たことがあります。アップは「準備運動」ではなく、ケガからわが子を守る保険だと考えてください。
01結論:運動前は「動的」・運動後は「静的」
まず、いちばん大事な整理から。ストレッチには大きく2種類あります。
- 動的ストレッチ:もも上げ、足振り、スキップなど、動きながら関節を大きく動かして体を温めるもの。ラジオ体操はこの仲間です。→ 運動前にやる
- 静的ストレッチ:前屈やアキレス腱伸ばしのように、止まった姿勢でぐーっとゆっくり伸ばすもの。→ 運動後・お風呂上がり・寝る前にやる
覚え方はシンプルで、「動く前は動くアップ、動いた後はゆっくり伸ばす」。これだけです。難しい理屈は抜きにして、この順番さえ守れば、家庭でのケアとしては十分に合格点です。
なぜ前と後ろで種類が変わるのか。目的がまったく違うからです。
- 運動前の目的=スイッチを入れる。体温と心拍を上げて、関節を動く範囲いっぱいに動かし、「今から走るぞ」と体に伝える作業。だから動きながらやる必要があります。
- 運動後の目的=スイッチを切る。使って縮こまった筋肉をゆっくり元の長さに戻し、興奮した体を落ち着かせる作業。だから止まってやるのが合っています。
車で言えば、運動前は暖機運転、運動後はクールダウン。順番が逆だと、どちらの効果も薄くなります。
02なぜ運動前に「ぐーっと伸ばす」は逆効果なのか
「ストレッチ=運動前」というイメージ、実は私たち親世代の体育の記憶がもとになっています。ところが今は、運動の直前に長い静的ストレッチだけをやるのはおすすめしない、という考え方が主流になってきています。
かんたんに言うと、筋肉はゴムのようなもの。運動直前にじっくり伸ばしすぎると、一時的にゴムがゆるんだ状態になり、ダッシュやジャンプの瞬発力が出にくくなると言われています。しかも座って伸ばしている間は体が動いていないので、心拍数も体温も上がらない。つまり「体は温まっていないのに、筋肉だけゆるんでいる」という、いちばん中途半端な状態で走り出すことになるんです。
・座り込んで前屈やアキレス腱伸ばしをじっくり長くやる(これは運動後・お風呂上がりの仕事です)
・いきなり全力ダッシュ(体が冷えたままのトップスピードがいちばん危険)
・寒い日に「時間がないから」とアップを省略する
じゃあ運動前に何をすればいいのか。答えが、次から紹介する動的アップ3つです。全部やっても5分。チームのアップとは別に、集合前に親子でやっておくと、練習の一本目から体が動きます。
03もも上げスキップ
ももを腰の高さまで上げながら、リズムよくスキップで進みます。腕も大きく振るのがポイント。ももの前と股関節まわりが温まり、走る準備が整います。
04足振りスイング
壁や親の肩につかまって、片足を前後にブラーンと大きく振ります。次に体の前で左右にも。ももの裏と内もも、股関節が動きながらほぐれる、サッカー向きの動的ストレッチです。
05グーパージャンプ+肩回し
足を閉じて→開いてを繰り返す小さなジャンプ(グーパー)をしながら、腕を前回し・後ろ回し。ラジオ体操の要領で、全身を一気に温めます。心拍数が上がって、体のスイッチが入ります。
ここまでの3つで、運動前のアップは完成です。時間にして5分ほど。そして運動が終わったら、今度こそ「ぐーっと伸ばす」静的ストレッチの出番です。
06寝る前5分の静的ストレッチ
お風呂上がりか寝る前に、①ももの前(立って足首を持ちかかとをお尻へ)②ももの裏(座って前屈)③ふくらはぎ(アキレス腱伸ばし)の3か所を、痛気持ちいいところでゆっくりキープ。反動はつけません。
07試合当日のアップ|時間配分と流れ
練習日はチームのアップに任せておけば大丈夫です。問題は試合の日。会場に着いてから何をどの順でやるか、意外と誰も教えてくれません。
現場での目安を、時間の逆算で書きます。
- キックオフの40〜30分前:会場到着・トイレ・着替え。ここではまだ体を動かしません。座って待つ時間になりがちなので、体は冷えていく前提で考えます。
- 30〜20分前:動的アップ。歩き→もも上げ→足振り→グーパージャンプの順で、ゆっくりから息がはずむまで。5〜10分。
- 20〜10分前:ボールを使ったパス・シュートなど、実際の動きに近い練習。ここで一度、短いダッシュを2〜3本入れておくと、1本目から動けます。
- 10〜5分前:ミーティング・給水。上着を着て保温。
- 直前:軽く足踏み・ジャンプで体を起こしてピッチへ。
いちばん多い失敗が、アップが早く終わりすぎて、キックオフまでに体が冷めることです。監修コーチのチームでも、集合が早い日ほど立ち上がりが悪い、という傾向がはっきりありました。「早めに準備」は正しいのですが、アップの終わりはキックオフの15〜20分前までに寄せて、そこから先は保温と給水にあてるのが良い流れです。
・アップ後、地面に座り込んで長時間待つ(冷えて、せっかく上げた体温が下がります)
・出番のない控えの子を、ずっとベンチに座らせたまま出す(交代前に必ず体を動かす時間を)
・試合直前に長い前屈をさせる(運動後の仕事です)
・アップ中に水を飲ませない(喉が渇く前に少しずつが基本)
交代で途中から入る子は、ベンチにいる間に自分でアップし直すのが理想です。「そろそろ出そうだね」と親やコーチが声をかけて、タッチライン沿いで小走り・もも上げを1分。これだけで、入った直後のケガのリスクがかなり違います。
08寒い日と暑い日で変えること
アップは、季節でやることが変わります。同じメニューを1年中回している家庭が多いので、ここは差がつくところです。
寒い日(冬・朝いちの試合)は、とにかく温めることが最優先。
- 順番を入れ替える。グーパージャンプなど心拍の上がるものを先に持ってきて、体温を上げてから足振りやもも上げへ。冷えた状態で関節を大きく動かすより安全です。
- アップの時間を長めに。夏の1.5倍を目安に、ゆっくり長く。
- 着たまま始める。上着・長袖・手袋。汗ばんできたら脱ぐ。最初から半袖はもったいない。
- アップ後は必ず上着を着せる。ここをやるかやらないかで、立ち上がりが変わります。
暑い日(真夏・炎天下)は、逆に体温を上げすぎないことが大事です。
- アップは短く・日陰で。長々やると、試合前にバテます。
- 水分は喉が渇く前から。「試合前に飲むとお腹が痛くなる」と嫌がる子もいますが、少量をこまめにが基本。
- ハーフタイムと給水タイムを最優先。日陰に入る、首を冷やす、を親がサポート。
- 顔が赤い・汗が止まった・ぼーっとしている・気持ち悪がる——このときはすぐ日陰で休ませ、冷やして水分を。改善しない、または様子がおかしいときは、迷わず医療機関へ。無理をさせない判断が最優先です。
暑さ寒さの感じ方には個人差があります。同じ気温でも平気な子とつらい子がいるので、気温より、その子の様子を見てください。
09ふざけて雑になる問題と、低学年の考え方
ここは、多くの親が本音で困っているところだと思います。「ストレッチをやらせようとすると、ふざけて話にならない」。
先に結論を言うと、低学年のうちは、それでほぼ正常です。9歳前後までの子に「20秒じっと止まって伸ばす」を求めるのは、正直かなり無理があります。じっとしているのが苦手なのは、性格ではなく年齢の問題だからです。
だから、低学年に必要なのは長い静的ストレッチではありません。むしろ、鬼ごっこ・スキップ・けんけん・くま歩きのような遊びの中で体をいろいろ動かすことのほうが、この年代には合っています。ケガ予防としても、そちらのほうが効いています。
ふざけて雑になるときの、現場で効いた手はこれです。
① 数を数えさせる。親が数えるのではなく、子どもに声を出して数えさせると集中します。
② 時間を半分にする。20秒が無理なら10秒。ゼロよりはるかにマシです。
③ 親と勝負にする。「どっちが前屈で床に近いか」。負けず嫌いの子ほど食いつきます。
④ テレビの前でやる。真面目な場を作ろうとしないほうが続きます。
⑤ 順番を固定する。毎回同じ3か所・同じ順で。考えなくていい形にすると、ふざける余地が減ります。
監修コーチのチームでは、練習後のストレッチを「3か所だけ・各10秒」まで削ったことがあります。内容を減らしたのに、やる子の数は増えました。やらないメニューを完璧に組むより、やる形まで削るほうが強い。家庭でも同じです。
中学年・高学年になると、自分の体への興味が出てきます。「ここが硬いと膝が痛くなりやすいらしいよ」と理由を添えると、急に真面目にやりはじめる子が出てきます。低学年は遊びで、高学年は理由で。声のかけ方を年齢で切り替えてください。
10ストレッチ以外のケア|お風呂と睡眠
ここは意外と語られませんが、正直に言うとストレッチより効いていると感じる部分です。
お風呂。シャワーで済ませる家庭が多いですが、練習・試合のあった日は湯船につかるほうが体は楽になります。体が温まった状態は筋肉が伸びやすく、お風呂上がりが静的ストレッチのベストタイミング。「風呂上がりに3か所」をセットにしてしまえば、思い出す手間もいりません。
ただし、ぶつけた直後・腫れている・熱を持っているときは、温めるのは避けてください。その日は湯船を短くするか、シャワーで。判断に迷う状態が続くなら受診を。
睡眠。成長期の体は、寝ている間に回復します。練習を頑張った日ほど、早く寝かせる。当たり前すぎる話ですが、週末に試合が続く時期はここが崩れがちです。夜更かしが続いた週に、疲れが抜けず動きが重い子は、見ていて分かります。
- 練習・試合の日は、いつもより30分早く布団へ。
- 寝る直前のゲーム・動画は短く。寝つきが悪いと、寝た時間のわりに回復しません。
- 朝ごはんを抜かない。エネルギー不足のまま動くと、動きが硬くなりケガにつながりやすい。
- 連戦の週は、練習を1回休む勇気。休養もトレーニングのうちです。
体づくり全般の話には個人差があります。食事や睡眠で気になることがあれば、かかりつけ医や専門家に相談してください。ここでは「ストレッチだけでケガは防げない」という前提だけ、押さえておいてもらえれば十分です。
11膝・かかとの痛みは我慢させない(オスグッド・シーバー)
ここからは、ストレッチと同じくらい大事な話です。成長期の子どもには、大人にはない特有の痛みが出ることがあります。代表的なのが、膝のお皿の下が痛くなる「オスグッド」と、かかとが痛くなる「シーバー病」と呼ばれるもの。どちらも、骨がぐんと伸びる時期に、筋肉や腱の付け根に負担がかかって起こりやすいと言われています。名前だけでも覚えておくと、いざという時にあわてません。
ここで、現場のコーチとしてどうしても伝えたいことがあります。「痛いけど大丈夫」と言う子ほど、大丈夫じゃないことがあるということ。サッカーが好きな子ほど、休みたくないから痛みを隠します。親が「頑張れ」と言ってしまうと、子どもは痛みを言い出せなくなります。
・走ったりジャンプしたりすると、いつも同じ場所を痛がる
・練習後に膝の下やかかとを押すと痛がる、さすっている
・痛みをかばって走り方がおかしくなっている
成長や体の状態には個人差があります。痛みが数日続く・繰り返すときは、自己判断せず整形外科(できればスポーツに詳しい先生)に相談してください。早く診てもらうほど、結果的に早くサッカーに戻れることが多いです。
大事なのは、痛みを「根性の問題」にしないこと。この記事のストレッチは予防のための習慣であって、すでにある痛みを治すものではありません。「休む勇気も強さのうち」と、親のほうから言ってあげてください。
そしてもう1つ、はっきり書いておきます。痛みが出ている場所を、伸ばさないでください。
「硬いから痛いんでしょ」と、痛がる膝の下やかかとをぐいぐい伸ばしたり、強く揉んだりする——気持ちは分かりますが、これは逆効果になることがあります。痛みの原因が分かっていない段階で刺激を足すのは、リスクのほうが大きいからです。
・痛い場所を無理に伸ばす、反動をつけて伸ばす
・痛い場所を強く揉む・押し込む
・「動かしたほうが治る」と言って練習を続けさせる
・自己判断でテーピングやサポーターに頼り続ける
やることはシンプルです。その日は運動を休ませる。数日続く・繰り返す・走り方が変わっているなら整形外科(できればスポーツ整形)へ。診てもらったうえで、何をどこまでやっていいかを聞くのがいちばん早い道です。
12親子で続けるコツ+現場の声
正直なところ、子どもが一人で毎日ストレッチを続けるのは、ほぼ無理です。続いている家庭に共通するのは、親も一緒にやっていること。お風呂上がりに親子で3か所だけ、寝る前の「儀式」にしてしまうのがいちばんの近道です。デスクワークで固まったパパ・ママの体にも、正直かなり効きます。
「アップの意味を知らなくて、練習前に座って前屈させてました…。動きながらのアップに変えてから、最初の1本目から動けてる気がします」
「かかとが痛いと言い出したとき、成長痛だから平気でしょと様子見しちゃって。病院で聞いて、早く連れてくればよかったと反省しました」
「寝る前ストレッチ、私も一緒にやってます。子どもより私の体が硬くて笑われるんですが、それで逆に続いてます」
「『痛いなら休もう』って言える雰囲気を家で作るのが大事だと、コーチに言われてハッとしました」
① 練習・試合の前は動的アップ3つ(もも上げスキップ・足振り・グーパージャンプ)で5分
② お風呂上がりに静的ストレッチ3か所(ももの前・ももの裏・ふくらはぎ)を親子で5分
③ 膝・かかとの痛みは我慢させない。続くなら整形外科へ
完璧を目指さなくて大丈夫。まずは②の「お風呂上がり5分」だけでも、今夜から始めてみてください。
よくある質問
何歳からストレッチを教えればいいですか?
低学年からでOKですが、「正しくやらせる」より「一緒に楽しくやる」が優先です。低学年のうちは動的アップを遊び感覚で。静的ストレッチは秒数を厳密にせず、テレビを見ながらゆるくで十分です。体の柔らかさには個人差があるので、他の子と比べる必要はありません。
毎日やらないと意味がないですか?
毎日が理想ですが、練習・試合がある日だけでも効果はあります。おすすめは「お風呂上がりの静的ストレッチだけは毎日」。1日5分・場所も道具もいらないので、習慣化のハードルがいちばん低いメニューです。
子どもが膝やかかとを痛がります。すぐ病院に行くべき?
まず運動を休ませて様子を見てください。数日たっても痛がる、同じ場所を繰り返し痛がる、歩き方・走り方が変わっている場合は、整形外科(スポーツ整形があればなお良い)を受診しましょう。成長期特有の症状は早めの対応が大切です。自己判断でマッサージや無理なストレッチをするのは避けてください。
体が硬い子はサッカーに向いていないのでしょうか?
そんなことはありません。柔らかさは生まれつきの差も大きく、サッカーの上手さと直結するものではないです。ただ、ももの前やふくらはぎが極端に硬いとケガのリスクは上がると言われるので、寝る前の静的ストレッチをコツコツ続ける価値は十分あります。
アップは試合のどのくらい前にやればいいですか?
体が温まった状態でキックオフを迎えるのが理想なので、目安は開始15〜20分前に終わるくらい。チームでアップがある場合はそれに任せてOKです。冬場は体が冷めやすいので、アップ後は上着を着せて保温してあげると効果が長持ちします。
練習後のケアと、痛みが出たときの対応もあわせて。
→ 練習後のクールダウン
→ 軽いケガの見極めと初期対応
最後にもうひとつ。ケガ予防はストレッチだけでは完結しません。足に合わない靴——大きすぎるスパイク、すり減ったソール——も、転倒やひねりの原因になります。アップと靴、この2つがそろって初めて「ケガしにくい体」の土台ができます。今の一足がお子さんの足に合っているか、一度チェックしてみてください → 学年・足型からピッタリの一足を選べる比較ランキングはこちら
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育成年代の指導3年目、延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断・認知・立ち位置を軸に「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。
用品・ルール・練習の記事は、公開前に監修コーチが内容を確認し、事実に関わる記述は一次情報にあたって整理しています。監修者について →

