小学生のチームには、たいてい「明らかに上手い子」が数人います。当たり負けせず、走れば一番速く、ゴール前で決めきる。ところが、その序列は中学に上がるころに入れ替わることがあります。原因は努力でも根性でもありません。小学生年代の強さの多くは、体がどれだけ早く育ったかで決まっている——この事実を知らないまま、親も子も自分の評価を間違えてしまうのが、早熟の罠です。
同じ学年でも、体の成熟の早さには数年ぶんの幅があります。早く育った子は今の試合で勝てるので、体で解決する方法だけが上手くなり、周りが追いついたときに武器を失う。逆に体が遅い子は、勝つために工夫を覚えるしかないので、後から効く技術が身につきます。
親がやることは1つ。今の序列を「実力の順位」だと読まないことです。今の順位は、今の体の順位であることが少なくありません。
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。監修コーチが、在籍17名の身長を測って高い順に並べたことがあります。そのうえで、コーチ陣それぞれに「今うまいと思う5人」を紙に書いてもらいました。
結果、身長上位5人のうち4人が、「うまい5人」に入っていました。技術を評価したつもりで、実際には体の大きさをかなりの割合で見ていたということです。指導する側でもこうなります。見学席から見ている保護者なら、なおさら同じことが起きます。
01早熟・晩熟とは|「学年」と「体の年齢」は別もの
まず、言葉を分けます。
暦年齢=生まれてから何年経ったか。学年を決めているのはこちら
成熟度=体がどこまで育ったか。身長の伸び方や骨の成熟で見る
同じ学年でも、この2つは一致しません。10歳のクラスの中に、体の成熟でいえば8歳相当の子と12歳相当の子が同時にいることがあります。
この差がいちばん開くのが、ちょうど小学校高学年から中学生にかけての時期です。身長が急に伸びる時期(成長スパート)が来る年齢に、個人差が大きいからです。早い子は小学5年生で始まり、遅い子は中学3年生で始まる。同じ学年の中に、4年ぶんの差が同居することになります。
ここで大事なのは、早いほうが優れているわけでも、遅いほうが劣っているわけでもないということです。最終的な身長は、早く始まったかどうかではほとんど決まりません。早いか遅いかは、順番の話であって、到達点の話ではありません。
02実測|身長上位5人と「うまい5人」が4人重なった
冒頭の話に戻ります。身長上位5人のうち4人が「うまい5人」に入っていた。
なぜこうなるのか。8人制の小学生の試合で起きていることを分解すると、はっきりします。
どれも「うまい」と見えます。実際に試合で結果は出ています。ただし、そこで起きているのは技術の差ではなく、体の差です。
その子は本当に勝っているので、評価が誤りだとは言えません。問題は「なぜ勝てているか」を大人が取り違えることです。体で勝っている子に「もっと球際を強く」と言い続けると、その子はいちばん伸ばすべき技術に手をつけないまま年代を終えてしまいます。
03早熟の子に起きること|勝てるから、体で解決する
早く育った子に何が起きるか。順を追うと、こうなります。
① 体で勝てるので、周りより結果が出る
② 結果が出るので、そのやり方が正解として強化される
③ 工夫する必要がないので、逆足・体の向き・判断の速さが後回しになる
④ 周りの体が追いつくと、武器が消える
⑤ 「急に下手になった」ように見える
⑤が、この罠のいちばん残酷なところです。本人は何も悪くしていません。同じことをやっているのに、通用しなくなる。そして周りの大人は「気持ちが足りない」「練習量が減った」と原因を探し始めます。
早熟の子ほど、体で解決できない条件を意図的に作る価値があります。狭い区画での1対1、2タッチ制限、逆足だけ、学年を上げた練習への参加。今のうちに「勝てない経験」をさせておくほうが、後で困りません。逆に言えば、いま無双している子ほど、放っておくと危ないということです。
04晩熟の子に起きること|不利が武器をつくる
体が遅い子はどうか。良い面と、看過できない面の両方があります。
体で勝てないので、勝つには工夫するしかありません。
先に触る位置に入る、相手の逆を取る、味方を使う、蹴られる場所にボールを置く——体が育ってからも消えない技術を、必要に迫られて覚えます。
そして体が追いついたとき、技術と体格が両方そろいます。
それ以前に、辞めてしまうことです。
試合に出られない、勝てない、下手だと思われている——この期間が長いと、体が追いつく前にサッカーから離れます。晩熟の最大の害は実力差ではなく、離脱です。体が育つ日は来るのに、そこまで残っていない。
つまり晩熟の子への関わり方は、技術指導よりも先に「続けられる状態を保つこと」が優先されます。
05早生まれ(相対年齢効果)とは別の話です
混同されやすいので、線を引いておきます。
相対年齢効果=同じ学年の中で、4月生まれと3月生まれでは最大で11か月の差がある問題
成熟度の差=同じ月に生まれた子どうしでも、体の育ち方に数年ぶんの差が出る問題
4月生まれで晩熟の子もいれば、3月生まれで早熟の子もいます。
この2つが重なると差はさらに開きますし、逆向きに働けば打ち消し合います。「早生まれだから不利」だけで説明しきれないのは、この2軸目があるからです。生まれ月の話は別記事で詳しく扱っています。
06親ができる4つのこと
コーチ側では成熟度でグループを分ける試み(同じくらいの体の育ち方の子どうしで試合をする方法)が海外で行われていますが、日本の少年団やクラブで一般的な運用にはなっていません。ここでは、家庭でできることに絞ります。
01身長を月1回、同じ日に測って記録する
日付と身長だけをメモします。3か月で2cm未満なら、まだスパート前。半年で6cm以上伸びているなら、スパートの最中である可能性が高い時期です。
02今の順位を「体の順位」として言葉にしておく
「今うまい順は、今の体の大きさの順とかなり重なっているよ」と、事実として伝えます。慰めの言い方をしないのがコツです。
03体で勝てない条件を、家の練習に入れる
5歩四方の狭い区画での1対1、2タッチ制限、逆足だけ。押し合いで解決できない形にします。早熟の子ほど効きます。
04比べる相手を、過去の本人にする
「〇〇くんより」ではなく「先月の自分より」で話します。成熟度が違う相手と比べる限り、努力と結果が一致しないためです。
「「今の順位は今の体の順位」と伝えたら、本人がすっと落ち着きました」
「上の学年に混ぜてもらったら、体で押せなくなって本人が初めて考え始めました」
「身長を測り始めて、伸びていない時期と調子が落ちる時期が重なると分かりました」
「小さいうちは勝てないと知って、辞めさせる判断をしなくて済みました」
07「早いうちに結果を」が危ない理由
最後に、いちばん言いたいことを書きます。
小学生の年代で結果を急ぐと、早熟の子を選び、晩熟の子を落とすことになります。今日の試合に勝つには、それが合理的だからです。短期的には正しい判断が、育成としては損をしている——ここが難しいところです。
セレクションで選ばれる子が、早熟に偏る
選ばれた子は、体で勝てるやり方をさらに強化される
落ちた子は、体が追いつく前に辞める
どこにも悪意がありません。それぞれが真面目にやった結果として、こうなります。
家庭でできる対抗策は、繰り返しになりますが1つだけです。今の評価を、確定した実力だと思わないこと。選ばれても、選ばれなくても、そこで話を終わりにしない。
体が育つのを待てるのは、続けている子だけです。
08よくある質問
早熟・晩熟とは何ですか?
体の成熟が同学年の平均より早いか遅いかを指します。学年を決めている暦年齢(生まれてから何年経ったか)と、体がどこまで育ったかを示す成熟度は一致しません。10歳のクラスに、体の成熟でいえば8歳相当の子と12歳相当の子が同時にいることがあります。差がもっとも開くのは小学校高学年から中学生にかけての時期です。
早熟だと、最終的に大きくなれないのですか?
早いか遅いかは順番の話で、到達点の話ではありません。早く伸び始めた子が最終的に低くなるとは限らず、遅く始まった子が高くなるとも限りません。ただし早い子は「今の学年の中では大きい」期間が長く、遅い子は「今の学年の中では小さい」期間が長くなります。順位が入れ替わるのは、この期間が終わるからです。
今チームで一番うまい子は、本当にうまいのではないのですか?
実際に勝っているので、評価が誤りだとは言えません。問題は「なぜ勝てているか」の読み違いです。身長上位5人と、コーチ陣が挙げた「うまい5人」を突き合わせたところ4人が重なりました。球際・ロングボール・こぼれ球・GKの守備範囲は、体格だけで有利になります。技術を見たつもりで体の大きさを見ていることが、指導する側にも起こります。
早熟の子には、どう関わればいいですか?
体で解決できない条件を意図的に作ることです。狭い区画での1対1、2タッチ制限、逆足だけ、学年を上げた練習への参加。今のうちに勝てない経験をしておくほうが後で困りません。体で勝てているあいだは、逆足や体の向き、判断の速さといった後で効く技術に手をつける動機が本人に生まれにくいためです。
晩熟の子に、いちばん気をつけることは何ですか?
辞めてしまうことです。晩熟の最大の害は実力差そのものではなく離脱で、体が追いつく日は来るのに、そこまで残っていないことが起こります。技術指導より先に「続けられる状態を保つこと」を優先してください。試合に出られない期間が長い場合は、チームの選び方を含めて見直す価値があります。
早生まれの不利と同じ話ですか?
別の軸です。相対年齢効果は同じ学年の中で最大11か月の差が生じる問題、成熟度の差は同じ月に生まれた子どうしでも体の育ち方に数年ぶんの差が出る問題です。4月生まれで晩熟の子もいれば、3月生まれで早熟の子もいます。2つが重なれば差は開き、逆向きなら打ち消し合います。
生まれ月による差のほうは、こちらで詳しく扱っています → 早生まれは不利なのか|相対年齢効果 身長が急に伸びる時期に起きる体の変化は急に身長が伸びる時期の体の変化、体格差そのものへの向き合い方は体が小さい子のサッカーへ。
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
育成年代の指導3年目、延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断・認知・立ち位置を軸に「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。
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