「うちの子、足は速いのに抜けないんです」——この相談は本当に多い。逆に「そんなに速くないのに、なぜか抜いていく子」もいます。この差はどこにあるのか。ヒントは、日本代表の三笘薫選手にあります。彼は筑波大学でドリブルを研究テーマにしたことで知られています。感覚でやっていたことを言葉にして、分解して、再現できる形にした選手。この記事では、「抜く」の正体はスピードではなく、相手を止めることだという話を、小学生が今日から試せる形まで落とします。
ドリブルで抜けるかどうかは、足の速さではなく相手の足が止まっているかどうかで決まります。抜ける子は、走り出す前に相手を止めている。止め方は3つ。①まっすぐ相手に運ぶ ②相手の重心が片方に乗るのを待つ ③乗った側と逆に出る。とくに①が抜けています。斜めに近づく子は、相手が下がりながら対応できるので永久に抜けません。正面から入って、相手の足を止めてから外す。これが順番です。
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。監修コーチのチームで、1対1の練習を映像で数えたことがあります。抜けた場面と抜けなかった場面を分けて、「仕掛ける前に相手との距離が2メートル以内になっていたか」を確認したところ、抜けた場面の81%が2メートル以内まで近づいていました。抜けなかった場面は、そのほとんどが4メートル以上離れた地点から加速していた。遠くから加速すると、相手は下がりながら待てます。近づかないと、抜けない。足の速さではなく、距離の問題でした。
01三笘薫が「研究」したドリブル
三笘薫選手は、川崎フロンターレの下部組織に所属しながら大学へ進学し、筑波大学でドリブルを研究テーマとして扱ったことが広く知られています。プロ入りを一度見送って大学へ進んだ選手が、自分の武器を学問として分解した——この経歴自体が、日本のサッカー界では珍しいものでした。
ここで注目したいのは、研究の細かい中身ではなく、「ドリブルは分解できる」と考えたという事実のほうです。
多くの場合、ドリブルはセンスとして語られます。「あの子は生まれつきうまい」「ドリブラーの才能」。ですが、分解できるなら練習できる。教えられる。再現できる。
少年サッカーの現場でも、これは大きな違いを生みます。「ドリブルはセンス」と思っている子は、抜けなかったとき自分の才能のせいにします。「分解できる」と知っている子は、どの部分がダメだったかを探します。同じ失敗から、まったく違うものを持ち帰る。
02抜くとは「相手を止める」こと
ここが、この記事の核心です。
ドリブルで抜くというのは、自分が速く動くことではありません。相手を止めることです。考えてみれば当たり前で、相手が全力で横に走れる状態なら、こちらがどれだけ速くても追いつかれます。抜けるのは、相手の足が一瞬止まったときだけ。
では、相手はどんなときに止まるのか。
① こちらが正面から近づいてきたとき(下がりきれず、構えざるを得ない)
② どちらに来るか分からないとき(判断待ちで重心が中央に留まる)
③ 重心を片方に乗せた直後(乗せた側と逆へは、すぐ動けない)
このうち③の直後だけが、本当に抜けるタイミングです。
つまりドリブルの手順は、こうなります。近づく → 相手を構えさせる → 重心が片方に乗るのを待つ → 逆に出る。
多くの子は、この手順の最初と真ん中を飛ばして、いきなり最後だけをやっています。遠くから、相手が動いてもいないのに、いきなり横に出る。相手は動いていないので、そのままついてこられる。
03近づかないと抜けない|2メートルの法則
冒頭の数字をもう一度出します。抜けた場面の81%が、相手との距離2メートル以内から仕掛けていた。
なぜ近づく必要があるのか。相手に下がる余裕を与えないためです。
4メートル離れた地点から加速すると、相手は下がりながら対応できます。下がりながらでも、進行方向は変えられる。ところが2メートルまで近づかれると、相手は下がりきれず、その場で構えるしかなくなります。構えた瞬間、足が止まる。ここが勝負どころです。
伝え方としては、「相手のつま先が見えるところまで運ぶ」が効きます。距離をメートルで言っても子どもには分かりませんが、相手のつま先が見える=それくらい近いという感覚は伝わります。
近づくのが怖い、という子は少なくありません。奪われるのが怖いからです。この場合は、「奪われてもいい練習」を先に作ってください。ミニゲームで「取られても怒らない・すぐ次」というルールにするだけで、近づけるようになる子がいます。怖さは、失敗の許可でしか解けません。
04相手の重心を見る|どっちに乗ったか
近づいて相手を構えさせたら、次は待つ。ここが小学生には一番難しい部分です。
見るのは相手の足です。人は動くとき、必ずどちらかの足に体重を乗せます。乗せた瞬間、その足は地面から離せません。つまり、乗せた側と反対方向には、一瞬動けない。
だから、抜く方向はこう決まります。
相手が右足に体重を乗せた → 相手から見て右側(自分から見て左)へ出る
相手が両足に均等に乗っている → まだ出ない。もう少し揺さぶる
自分がどっちに行きたいかで決めるのではなく、相手が決めてくれるのがポイントです。
この「相手に決めさせる」という考え方は、少年サッカーではほとんど教えられていません。多くの子は行きたい方向をあらかじめ決めています。決めているから、相手がそこを閉じていても突っ込んで、奪われる。
低学年に伝えるなら、「相手が動いてから、反対」で十分です。理屈は要りません。
05スピードは、抜いた「あと」に使う
ここまで読んで気づかれたと思いますが、足の速さの出番が一度も出てきていません。
速さが効くのは、抜いたあとです。相手の重心の逆を突いて、体半分だけ前に出た——その瞬間から先が、スピード勝負になります。ここで速い子は決定的に抜け出せる。
つまり順番はこうです。
① 近づく(相手を構えさせる)
② 待つ(重心が片方に乗るまで)
③ 逆に出す(ボールを置く位置がすべて)
④ ここで初めて加速(スピードの出番)
足が速い子ほど④から始めてしまうので、かえって抜けなくなります。
「足は速いのに抜けない」子の正体は、これです。持っている武器を、使う場所が違う。速さがないわけではありません。
06家でできる1対1の練習4つ
1対1は、広さより相手役が必要です。親が相手役になれば、家の前でも成立します。
01つま先まで運ぶ
親が守備役で立ち、子はボールを持って親のつま先が見える距離まで運びます。抜かなくて構いません。近づくことだけが目的です。近づけたら成功。
02重心当てクイズ
親が守備役で立ち、意図的にどちらかの足に体重を乗せます。子は「右!」「左!」と乗った側を口で言うだけ。ボールは使いません。当たるようになったら、逆へ出る動作を足します。
03止まってから出る
ドリブルで近づいたら、いったん完全に止まります。止まった状態から、親が動いた方向と逆に一歩で出る。加速はしません。「止まる→出る」の切り替えだけを練習します。
04抜いたあと5メートル
抜いた瞬間から5メートルだけ全力で走ります。抜くところと走るところを、はっきり分ける練習です。
「「つま先が見えるまで近づく」でやっと抜けるようになりました。今まで遠くから仕掛けていました」
「足が速いのに抜けない理由が、使う場所が違うだけと分かって腑に落ちました」
「行きたい方向を決めていたのを、相手が動いてから反対、に変えたら成功率が上がりました」
「取られても怒らないルールにしたら、急に近づけるようになりました」
近づいて仕掛けるドリブルは、細かいタッチと急な方向転換を繰り返します。足元が滑ると、この止まる・出るの切り替えができません。土のグラウンドで使うなら、スタッドが噛むかどうかが直結します。
△ここだけ注意:スパイクで抜けるようになるわけではありません。ただし止まる動作は、足元が滑ると成立しません。「止まってから出る」の練習をしても効果が出ない場合、技術ではなく靴底が原因のことがあります。判断はスパイクの寿命と買い替えサインを参考にしてください。
07「もっと仕掛けろ」が逆効果になるとき
最後に、声かけの注意点をひとつ。
「もっと仕掛けろ」——悪い言葉ではありません。ただ、この言葉だけを言われた子がやるのは、たいてい遠くからの突っ込みです。そして奪われる。奪われると怒られる。仕掛けろと言われてやったのに怒られるので、子どもは混乱し、やがて仕掛けなくなります。
代わりに、やることが1つに決まる言葉を使ってください。
「もっと仕掛けろ」→ 「相手のつま先が見えるまで運ぼう」
「抜け!」→ 「相手が動いてから、反対」
「勝負しろ」→ 「一回止まってみよう」
そして、近づいて奪われた失敗は、褒めてください。近づけたこと自体が前進だからです。遠くから安全に横パスを出すより、近づいて奪われた回数のほうが、その子の1年後を作ります。
08よくある質問
足が速いのにドリブルで抜けません。なぜですか?
スピードを使う場所が違うためです。ドリブルで抜けるかどうかは、自分が速く動くことではなく相手の足を止められるかで決まります。順番は「近づく→相手の重心が片方に乗るまで待つ→逆に出す→ここで初めて加速」。足が速い子ほど最後の加速から始めてしまい、相手が動いていない状態で仕掛けるので、そのままついてこられます。速さがないのではなく、使う順番の問題です。
どれくらい相手に近づけばいいですか?
相手のつま先が見える距離、目安として2メートル以内です。4メートル離れた地点から加速すると相手は下がりながら対応でき、間合いを保たれてしまいます。2メートルまで近づかれると相手は下がりきれず、その場で構えるしかなくなり、その瞬間に足が止まります。子どもには距離をメートルで言うより「相手のつま先が見えるところまで運ぶ」と伝えるほうが通じます。
どちらに抜けばいいか、どう判断させますか?
自分が行きたい方向ではなく、相手に決めさせます。人は動くとき必ずどちらかの足に体重を乗せ、乗せた足は一瞬地面から離せません。つまり乗せた側と反対には動けない。だから相手が右足に体重を乗せたら、その反対側へ出ます。両足に均等に乗っているならまだ出ず、もう少し揺さぶる。低学年には「相手が動いてから、反対」だけで十分伝わります。
三笘薫選手はドリブルを研究したのですか?
三笘選手は川崎フロンターレの下部組織に所属しながら筑波大学へ進学し、ドリブルを研究テーマとして扱ったことが広く知られています。ここで大事なのは研究の細かい中身より「ドリブルは分解できる」と考えた事実のほうです。分解できるなら練習でき、教えられ、再現できる。「ドリブルはセンス」と思っている子は抜けなかったとき才能のせいにしますが、分解できると知っている子はどの部分がダメだったかを探します。
近づくのを怖がります。どうすればいいですか?
奪われるのが怖いからなので、先に「奪われてもいい練習」を作ってください。ミニゲームで「取られても怒らない・すぐ次」というルールにするだけで近づけるようになる子がいます。怖さは失敗の許可でしか解けません。また、近づいて奪われた失敗は褒めてあげてください。遠くから安全に横パスを出すより、近づいて奪われた回数のほうがその子の1年後を作ります。
「もっと仕掛けろ」と言ってはいけませんか?
その言葉だけだと逆効果になりがちです。言われた子がやるのはたいてい遠くからの突っ込みで、結果として奪われ、怒られる。仕掛けろと言われてやったのに怒られるので混乱し、やがて仕掛けなくなります。代わりに「相手のつま先が見えるまで運ぼう」「相手が動いてから、反対」「一回止まってみよう」のように、やることが1つに決まる言葉を使ってください。
抜けるようになると、次は抜いたあとに何をするかが課題になります。シュートまで持っていく判断はシュートコースの狙い分けへ。仕掛ける前の準備は「周りを見る回数」を増やすにまとめています。
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
育成年代の指導3年目、延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断・認知・立ち位置を軸に「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。
用品・ルール・練習の記事は、公開前に監修コーチが内容を確認し、事実に関わる記述は一次情報にあたって整理しています。監修者について →

