ベンチから絶えず指示が飛ぶチーム。「右!」「shoot!」「戻れ!」「出せ!」。一見、熱心でよく指導されているように見えます。ところが、そういうチームの子ほど、試合中に顔を上げてベンチを見るようになる。自分で決める前に、答えを待つ癖がつくからです。これは指導者だけの話ではありません。タッチラインから声を出す保護者にも、まったく同じことが起きます。この記事では、「言えば言うほど、決められない子になる」という現象を分解し、どこまでが助けで、どこからが邪魔なのかの線を引きます。
プレー中の指示は、子どもの判断のプロセスを丸ごと肩代わりしてしまいます。声をかけるならプレーが切れているときだけ。試合中に言っていいのは「危ないよ」の類の安全にかかわることだけです。それ以外は、プレーが終わってから質問で返す。「なんであそこで出したの?」ではなく「あのとき、どこが空いてた?」。指示を減らすと、最初の数試合は必ず下手になります。そこを越えた先に、自分で決められる子がいます。
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。監修コーチが、自分自身の指示回数を試合中に数えてもらったことがあります。前半20分でベンチからの指示は63回。1試合ではなく、たった20分でです。しかもその8割が「ボールをどうするか」の指示でした。次の試合、意識して「安全にかかわること以外は言わない」と決めて臨んだところ、指示は11回に減りました。結果はどうだったか。前半だけでミスは明らかに増えました。ところが3試合目あたりから、子どもがベンチを見る回数が減り、自分で前を向いて仕掛ける回数が増えていきました。指示を減らすと、いったん下手になる。これは避けて通れません。
01指示が奪うのは「技術」ではなく「判断」
サッカーのプレーは、ざっくりこの順番で進みます。
① 見る(周りの状況を認識する)
② 決める(どうするかを選ぶ)
③ やる(実行する)
④ 見直す(結果から学ぶ)
ここで、「右に出せ!」という指示が飛ぶと何が起きるか。
子どもは①と②を飛ばして、③だけをやります。周りを見る必要がない。決める必要もない。言われたとおりに右へ出すだけ。
そして、これが繰り返されると①と②の練習量がゼロになります。技術(③)は指示があっても伸びる。でも判断(②)は、自分で決めた回数ぶんしか伸びません。
ここが指導者としても一番苦しいところです。指示を出せば、その試合は勝ちに近づきます。実際うまくいく。だから出したくなる。目の前の1試合と、3年後の選手と、どちらを取るかという選択になります。試合に勝つことも大事なので、正解が1つではないのが難しいところです。
02ベンチを見る子は、なぜベンチを見るのか
指示が多いチームで必ず起きるのが、子どもがプレー中にベンチを見る現象です。
これを「集中していない」と受け取る大人がいますが、逆です。集中しているからこそ見ている。この子にとって、正解はベンチにあるからです。今までずっとそうだったので、当然の学習結果です。
ボールを持った瞬間にベンチを見る子は、こう考えています。「間違えたら怒られる。だから正解を確認してから動こう。」
このサインが出ている場合、直すべきは子どもではなく大人の側の情報量です。
03言っていいこと・言ってはいけないこと
「一切声をかけるな」という話ではありません。線を引きます。
◯ 安全にかかわること:「危ない」「後ろから来てる」
◯ ルール・時間の情報:「あと5分」「キーオフはこっち」
◯ 励まし(内容を含まないもの):「ナイス」「いいよ」
× ボールをどうするかの指示:「右!」「出せ!」「打て!」「戻れ!」
× 結果への評価:「なんでそこ!」「今のは違う!」
区別の基準は単純で、その言葉が「子どもの判断の代わり」になっていないかです。
「後ろから来てる」は情報の提供で、それを受けてどうするかは子どもが決めます。①の材料を足しているだけで、②は奪っていない。一方「右に出せ」は②そのものです。
シュートの場面で「打て!」は、つい出てしまう言葉です。ですがこれも②の肩代わり。しかも打った結果が外れると、言われて打った子は誰のミスなのか分からなくなります。自分で決めて外したミスは学びになりますが、言われて外したミスは学びになりません。
04保護者の声かけも、まったく同じ構造
ここまではベンチの話ですが、タッチラインからの保護者の声も、子どもにとっては同じです。むしろ、親の声のほうが強く届きます。
そして親の声には、ベンチにはない難しさが2つあります。
1つめ。コーチの指示と食い違う。コーチが「一度落ち着け」と言っているときに親が「行け!」と言うと、子どもはどちらに従うかで迷います。この0.5秒が失点になることもあります。
2つめ。子どもは親の声を無視できない。コーチの声は「指導」ですが、親の声は評価として届きます。「今の!」と言われた子は、ミスを取り返そうとして次のプレーで無理をする。悪循環に入ります。
試合中に、子どもの名前を呼んでからのプレー指示は最も影響が強く出ます。「◯◯、右!」。名前を呼ばれた時点で子どもは必ず反応するので、判断が完全に止まります。名前を呼ぶのは、応援か、危険を知らせるときだけにしてください。
05指示を減らすと、いったん下手になる
正直に書きます。指示を減らすと、必ず一度うまくいかなくなります。
冒頭の例でも、指示を63回から11回に減らした試合は、前半のミスが明らかに増えました。当然です。今まで大人がやっていた「見る・決める」を、子どもが自分でやり始めるからです。最初は下手なのが当たり前で、これは失敗ではなく移行期です。
ここで大人が耐えられずに指示を戻すと、元に戻るだけでなく悪化します。「やっぱり自分で決めるとダメなんだ」という学習が加わるからです。
1〜2試合目:ミスが増える。判断が遅れて奪われる
3〜5試合目:ベンチや親を見る回数が減り始める
それ以降:自分で前を向く・仕掛ける回数が増える
数字は目安です。ただし「最初に必ず悪くなる」という順番だけは変わりません。
だからこそ、始める前に「しばらくうまくいかない」と決めておくことが大事です。想定していれば耐えられます。想定していないと、2試合目で戻します。
06指示の代わりに使える「質問」5つ
指示を減らすと、大人は口が寂しくなります。代わりに使うのが質問です。ただし、プレー中には使いません。試合が終わってから、あるいはハーフタイムに使います。
01「あのとき、どこが空いてた?」
特定の場面を1つだけ選んで聞きます。正解を言わせるのではなく、見えていたかどうかを確認する質問です。「見てなかった」と答えたら、それが収穫です。
02「もう一回やるなら、どうする?」
ミスした場面について、責めずに選択肢を出させます。答えが間違っていても訂正しないこと。考えたこと自体が目的です。
03「今日、自分で決めたプレーはどれ?」
結果ではなく、自分で決めたかどうかを聞きます。うまくいかなくても、自分で決めていたなら褒める対象です。
04「相手はどこにいた?」
味方ではなく相手を聞くのがポイント。相手を見ていた子は答えられます。答えられなければ、後半の課題が1つに決まります。
05「今のはナイス」だけ言う
内容を含まない励ましは、判断を奪いません。うまくいった場面ではなく、自分で決めて仕掛けた場面にかけてください。
「自分が試合中に何回声を出しているか数えたら、想像の3倍でした。それだけで減りました」
「「打て!」を我慢したら、本人が自分で決めて打つようになりました」
「最初の2試合は本当にひどくて、戻したくなりました。3試合目で変わったのが分かりました」
「名前を呼んで指示していたのをやめました。振り向かなくなって、プレーが途切れなくなりました」
自分で決めるためには、決める前に見えていることが必要です。見る習慣が足りていないと、指示を減らしても判断が育ちません。
△ここだけ注意:シューズと判断力に直接の関係はありません。ただ、自分で決める子は自分で練習を始めます。そのときに「靴がないからできない」で止まらないよう、公園でも使える一足があると動きやすい、という程度の話です。すでにお持ちなら不要です。
07コーチが指示過多なチームにいる場合
最後に、現実的な話をします。チームの指導方針は、保護者には変えられません。
コーチが指示を出し続けるチームにいる場合、親ができるのは家庭の側だけを変えることです。それでも意味はあります。
① 試合中の親の指示をゼロにする(少なくとも情報量は半分になります)
② 試合後は結果ではなく判断を聞く(自分で決めた経験を言語化させる)
③ 自主練では一切指示しない(自分で決める時間を家で確保する)
そして、コーチを批判しないこと。子どもの前でコーチを否定すると、子どもは指導そのものを受け取らなくなります。指導方針への意見は、伝えるべき場面と伝え方があります。そこはコーチに意見や不安を伝えたいときにまとめています。
08よくある質問
試合中に声をかけてはいけないのですか?
すべてがダメではありません。線引きは「その言葉が子どもの判断の代わりになっていないか」です。「危ない」「後ろから来てる」といった安全や情報の提供は、材料を足しているだけで判断は奪っていません。一方「右に出せ」「打て」は判断そのものの肩代わりです。励ましも、内容を含まない「ナイス」「いいよ」なら問題ありません。
うちの子が試合中にベンチや親のほうを見ます。集中していないのでしょうか?
逆です。集中しているからこそ見ています。その子にとって正解はベンチにあり、今までずっとそうだったので当然の学習結果です。「間違えたら怒られる、だから正解を確認してから動こう」と考えています。直すべきは子どもではなく、大人の側の情報量です。
指示を減らしたら下手になりました。戻したほうがいいですか?
戻さないでください。指示を減らすと最初は必ずミスが増えます。今まで大人がやっていた「見る・決める」を子どもが自分でやり始めるからで、これは失敗ではなく移行期です。ここで指示を戻すと、元に戻るだけでなく「やっぱり自分で決めるとダメなんだ」という学習が加わって悪化します。始める前に「しばらくうまくいかない」と決めておくと耐えられます。
「打て!」もダメなのですか?
これも判断の肩代わりです。しかも打った結果が外れたとき、言われて打った子は誰のミスなのか分からなくなります。自分で決めて外したミスは学びになりますが、言われて外したミスは学びになりません。シュート場面はつい出てしまう言葉ですが、我慢する価値のあるところです。
試合中に子どもの名前を呼ぶのはどうですか?
名前を呼んでからのプレー指示は、最も影響が強く出ます。名前を呼ばれた時点で子どもは必ず反応するので、判断が完全に止まってしまう。名前を呼ぶのは応援か、危険を知らせるときだけにしてください。「◯◯、右!」は避けたい形の代表です。
コーチの指示が多いチームです。親には何ができますか?
チームの指導方針は保護者には変えられませんが、家庭の側だけでも意味があります。試合中の親の指示をゼロにする(それだけで情報量は減ります)、試合後は結果ではなく判断を聞く、自主練では一切指示しない。この3つです。ただし子どもの前でコーチを批判しないでください。子どもが指導そのものを受け取らなくなります。
自分で決められる子にするには、決める材料が要ります。見る習慣は「周りを見る回数」を増やす、判断の順番はボール保持は目的じゃないにまとめています。
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
育成年代の指導3年目、延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断・認知・立ち位置を軸に「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。
用品・ルール・練習の記事は、公開前に監修コーチが内容を確認し、事実に関わる記述は一次情報にあたって整理しています。監修者について →

