半年前まではぐんぐん伸びていた。なのにここ数か月、何も変わっていないように見える。同じミスを繰り返すし、本人も楽しそうじゃない。「才能の限界なのか」「練習量が足りないのか」——親としては何かしたくなる場面です。ですが、ここで練習を増やすのは、多くの場合いちばんまずい手です。伸びが止まって見える時期には、性質のまったく違う2種類があります。それを取り違えると、伸びかけていた子を止めてしまう。この記事では、その見分け方と対応を書きます。
伸び悩みには①飽き・疲れによるもの ②プラトー(停滞期)によるものの2種類があり、対応が正反対です。①は休ませる、②は基礎に戻す。見分け方は「サッカー以外も元気がないか」——サッカーのときだけ停滞しているならプラトーです。そしてプラトーは、止まっているのではなく中で整理が進んでいる時期。ここで量を増やすと、整理を邪魔します。
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。監修コーチが、ある年に「最近伸びていない」と保護者から相談を受けた12人を、決めつけずに3か月見たことがあります。内訳は飽き・疲れが5人、プラトーが6人、そもそも伸びていた(親が気づいていないだけ)が1人。そしてプラトーだった6人のうち5人は、3か月以内に明確に一段上がりました。何もしなかったわけではありません。量を増やさず、基礎に戻しただけです。
01伸びが止まって見える2つの理由
まず、大人がひとまとめに「スランプ」と呼んでいるものを、2つに割ります。
① 飽き・疲れによる停滞
心と体が満腹の状態。サッカーに限らず、全体的に元気がない。対応=休ませる
② プラトー(停滞期)による停滞
覚えたことが多すぎて、中で整理が追いついていない状態。対応=基礎に戻す
この2つを取り違えると、対応が正反対になります。飽きている子を基礎に戻せば、もっと嫌になる。プラトーの子を休ませても、整理は進みません。
そして厄介なことに、外から見える症状はほとんど同じです。伸びない、ミスが増える、表情が暗い。だから見分ける必要があります。
02プラトーとは|止まっているのではなく整理している
プラトー(plateau)は「高原」という意味です。学習の伸びをグラフにすると、右肩上がりの直線にはならず、階段のように「伸びる → 平らになる → また伸びる」という形になる。この平らな部分がプラトーです。
ここで大事なのは、平らな部分で何も起きていないわけではないということです。
社会心理学者の岡本浩一氏は、著書『上達の法則』(PHP新書)のなかで、この停滞期には知識の整理が進み、技能が安定し、覚えたことと感覚が結びついていくという趣旨のことを書いています。表面の成績は動かないけれど、内側では構造が組み直されているという見方です。
現場の実感とよく一致します。プラトーに入った子は、しばらくすると急に「わかった」という顔をすることがある。技術が少しずつ上がるのではなく、ある日まとめて上がる。あれは、整理が終わった瞬間に見えます。だから平らな時期は、待つ価値のある時期です。
同書ではさらに、停滞期がその後の大きな飛躍のきっかけになることも多いという指摘があります。理由として挙げられているのは、停滞したときこそ、自分の知識や技能を基礎から見直すことになるから。つまり、止まったから見直せる。順調に伸びているあいだは、誰も基礎を疑いません。
03見分け方|サッカー以外も元気がないか
現場で使える判別法は、意外と単純です。
Q1. サッカー以外のことも、元気がないか?
→ はいなら「飽き・疲れ」寄り/いいえ(サッカーのときだけ停滞)なら「プラトー」寄り
Q2. 練習に行くこと自体を嫌がるか?
→ はいなら「飽き・疲れ」/いいえ(行くけど伸びない)なら「プラトー」
Q3. 本人が「うまくいかない」と言葉にしているか?
→ 言っているなら「プラトー」寄り(自覚がある=内側で処理が動いている)
とくにQ3が効きます。飽きている子は「つまらない」と言い、プラトーの子は「できない」と言う。似ているようで、まったく違う言葉です。
「つまらない」は関心が離れているサイン。「できない」は関心は向いたまま、うまくいっていないサイン。後者は、まだ前を向いています。
3つめは実際によくあります。本人はちゃんと伸びているのに、同学年の子がそれ以上に伸びたせいで、相対的に停滞して見える。この場合、問題は本人ではなくものさしのほうです。
04なぜ「もっと練習しろ」が最悪なのか
伸び悩みを見たとき、大人がまず思いつくのが練習量を増やすことです。スクールを足す、自主練を増やす、練習時間を延ばす。
ですが、どちらのタイプにも効きません。
飽き・疲れの子:満腹の状態にさらに詰め込むので、嫌いになる方向へ進みます
プラトーの子:内側で整理が進んでいるところに新しい情報を追加することになり、整理を邪魔します
とくに後者は見落とされがちです。覚えることが多すぎて整理が追いついていない状態に、さらに覚えることを足す。机の上が散らかっているときに、書類をもっと積むようなものです。
しかも量を増やすと、練習は無自覚になります。同じことを回数だけ多くこなすようになる。実はこれが、上達を止める最大の要因かもしれません。武術の上達論では「無自覚な反復は癖として植えつく」と言われ、認知心理学の側でも「精密に意識して取り組まなければ意味が薄い」とされている。アプローチのまったく違う2つの立場が、「意識のない反復はよくない」という一点では一致しています。
05プラトーのときにやるべきこと
01基礎に戻す(新しいことを足さない)
新しい技術・新しいメニューを一切足さず、すでにやったことだけを丁寧にやり直します。止める・蹴る・運ぶ。回数は増やさず、1回ずつの質だけ上げます。
02細かく説明させる/大づかみに説明させる
同じプレーについて「できるだけ細かく」と「ひとことで」の両方で説明させます。片方しかできないなら、まだ整理の途中です。両方できるようになったら、プラトーを抜けかけています。
031つ前のテーマに戻って比べる
以前にやっていたテーマ(たとえば半年前のドリブル練習)を1回だけやり直します。当時と今で、何が変わったかを本人に言わせます。
04試合の映像を見返す(プレー中ではなく後で)
止まっているように見える時期こそ、映像が効きます。本人が気づいていない変化が映っていることが多いからです。
06飽き・疲れのときにやるべきこと
こちらは、はるかに単純です。減らす。
① 練習を1回休ませる(罪悪感を持たせない。「休むのも練習」と言い切る)
② サッカー以外の遊びを入れる(体を動かす遊びなら何でもよい)
③ 期限を切らない(「今週だけ」と言うと休んだ気になれません)
ここで多くの家庭がためらいます。「休ませたら、そのまま辞めてしまうのでは」。気持ちは分かりますが、逆です。満腹の状態で無理に続けさせるほうが、辞める確率は上がります。
「休みたい」と言える子は、まだ続けたい子です。本当に辞めたい子は、休みたいとは言いません。
「「つまらない」と「できない」で分けると聞いて、うちは後者だと分かりました。待てるようになりました」
「スクールを足そうとしていたのを止めて、基礎に戻したら1か月で変わりました」
「半年前の練習をやらせたら「これ簡単じゃん」と言って、本人がいちばん驚いていました」
「実は伸びていて、周りがもっと伸びていただけでした。比べる相手を変えました」
基礎に戻す時期は、ボールを触る回数そのものより、1回ずつの精度が課題になります。足元が安定していないと、精度を上げる練習そのものが成立しません。
△ここだけ注意:ボールを替えれば停滞が抜けるわけではありません。ただ空気の抜けたボールや号数の違うボールでは、弾み方が毎回変わって精度の練習になりません。基礎に戻す期間だけは、条件をそろえる価値があります。すでに4号の検定球をお使いなら不要です。
07「わかった」と言ったら、次へ移す
最後に、プラトーを繰り返さないための考え方をひとつ。
『上達の法則』には、1つのことを深く練習していると「もうだいたいわかった」と感じる時期が自然に来る。そこからしばらく続けたら、別のものを対象にする。これを螺旋階段を昇るように繰り返すという趣旨の記述があります。
面白いのは、対象を変えると、前にこだわっていたものの輪郭まではっきりしてくるという部分です。AをやってからBに移ると、Bが分かるだけでなくAの理解も深まる。
子どもが「これはもうできる」と言ったら、そのテーマは終わりにして次へ移す。
飽きるまでやらない。飽きるまでやると、その動き自体を嫌いになります。
そして数か月後、また元のテーマに戻る。戻ったときの伸びが、いちばん大きい。
「まだ完璧じゃないのに次へ行っていいのか」と思うかもしれません。ですが、完璧になるまで同じことを続けるほうが、無自覚な反復になりやすい。回数はこなしているのに、頭が働いていない状態です。
止まって見える時期は、失敗ではありません。整理が終われば、また上がります。親にできるのは、その整理を邪魔しないことです。
08よくある質問
伸び悩みには種類があるのですか?
大きく2つあります。①飽き・疲れによる停滞(心と体が満腹の状態)と、②プラトー(停滞期)による停滞(覚えたことが多すぎて中で整理が追いついていない状態)です。対応は正反対で、①は休ませる、②は基礎に戻す。外から見える症状はどちらもほぼ同じなので、見分ける必要があります。
どうやって見分ければいいですか?
サッカー以外のことも元気がないなら「飽き・疲れ」、サッカーのときだけ停滞しているなら「プラトー」寄りです。本人の言葉も手がかりになり、飽きている子は「つまらない」と言い、プラトーの子は「できない」と言います。「つまらない」は関心が離れているサイン、「できない」は関心は向いたままうまくいっていないサインで、後者はまだ前を向いています。
プラトーとは何ですか?
学習の伸びが階段状になるときの、平らな部分のことです。ただし何も起きていないわけではなく、内側では知識の整理が進み、技能が安定し、覚えたことと感覚が結びついていくとされています。だから停滞期のあとに、少しずつではなく「ある日まとめて」上がることがあります。
伸び悩んでいるとき、練習量を増やすべきですか?
どちらのタイプにも効きません。飽き・疲れの子は満腹の状態にさらに詰め込むので嫌いになる方向へ進み、プラトーの子は整理が進んでいるところに新しい情報を足すことになって整理を邪魔します。机の上が散らかっているときに書類をもっと積むようなものです。さらに量を増やすと反復が無自覚になり、それ自体が上達を止めます。
休ませたら、そのまま辞めてしまわないか心配です。
むしろ逆で、満腹の状態で無理に続けさせるほうが辞める確率は上がります。「休みたい」と言える子は、まだ続けたい子です。本当に辞めたい子は休みたいとは言いません。休ませるときは罪悪感を持たせないことが大事で、「休むのも練習」と言い切ってください。
1つのテーマは、完璧になるまで続けるべきですか?
子どもが「これはもうできる」と言った時点で次のテーマへ移すことを勧めます。飽きるまでやると、その動き自体を嫌いになるためです。そして数か月後にまた戻ると、そのときの伸びがいちばん大きくなります。完璧になるまで同じことを続けるほうが、回数はこなしているのに頭が働いていない無自覚な反復になりやすいのです。
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育成年代の指導3年目、延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断・認知・立ち位置を軸に「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。
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