テレビの前で、子どもが目を輝かせて「この選手みたいになりたい!」と言い出す。うれしい瞬間です。でも次の週末、グラウンドでその子がやっているのは、体格も足の速さも全然ちがう選手のプレーの、形だけのモノマネ——。「憧れるのはいいけど、うちの子に合ってるのかな」「そもそも、どの選手をお手本にすればいいの?」。そう感じたことがある親は、けっこう多いはずです。この記事を読み終えるころには、体格・ポジション・まねる中身という3つの軸で、その子が本当に伸びるお手本の選び方が分かります。
お手本にする選手は、「体格が近い」×「ポジションが同じ」で選べば、まず外しません。そしてまねるのは技より習慣(走る量・切り替えの速さ・あいさつ)。この2点だけで、憧れが上達に変わります。ポジションごとの役割は → ポジション別の役割をやさしく解説
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。毎年見ていて感じるのは、お手本の選び方ひとつで、子どもの伸び方がまるで変わるということ。以前、身長が学年でいちばん低い子が、大柄で強引に体をぶつけて突破するタイプの選手に憧れていました。試合になると、その子は自分より頭ひとつ大きい相手に真正面からぶつかりに行っては、はね返される。3か月ほど、その繰り返しでした。ある日、体格の近い選手の映像を一緒に見て「この人、相手にぶつからずに横に逃げてから前を向いてるね」と話したところ、次の試合からプレーが変わりました。憧れが間違っていたのではなく、お手本の「選び方」だけがズレていたんです。
01結論:体格が近く、ポジションが同じ選手を選ぶ
まず結論から。小学生がお手本にする選手は、①いまの自分と体格のタイプが近い ②ポジションが同じ(か近い)——この2つで選んでください。有名かどうか、点を取るかどうかは、二の次でかまいません。
理由はシンプルです。体格やポジションが遠い選手のプレーは、まねしても再現できないから。再現できないことを毎週くり返すと、子どもは「自分はへただ」と勘違いします。逆に、体格の近い選手をお手本にすると「あ、これなら自分にもできそう」が積み上がる。この「できそう」の積み重ねが、小学生年代ではいちばんの燃料なんです。
① 体格タイプが近い選手を選ぶ(小柄なら小柄な選手)
② ポジションが同じか、役割が近い選手を選ぶ
③ まねるのは技より習慣(走る・切り替える・あいさつする)
この3つがそろうと、憧れがそのまま練習の質になります。
「じゃあ、大好きな選手が体格もポジションもちがったらダメ?」——そんなことはありません。好きな選手は好きなままでいい。そのうえで、「まねるための選手」をもう1人つくる。この二段構えがいちばんうまくいきます。
02体格が合わない選手をまねると、再現できない
小学生のプレーは、体格に大きく左右されます。ここを無視すると、練習がかみ合いません。
たとえば背が高く体の強いタイプの選手は、相手に体をぶつけてボールを守り、競り合いで勝ってからプレーします。これは体重と重心の高さがあって初めて成立する技術です。同じことを、まだ体重の軽い小柄な子がやると、単純にはね返されます。逆に小柄で足元の技術に長けたタイプの選手は、相手にぶつからない位置に先に立つ、狭いところで一歩でかわす、体を当てられる前にボールを離す——といった工夫でプレーしています。これは体が小さい子ほど再現できる技術なんです。
「体ができてから、あの選手みたいに」は、小学生には長すぎます。数年先の体格を前提にした練習を今やっても、成功体験がゼロのまま時間だけが過ぎる。今の体でできることを増やすほうが、結果的に上達は速いです。体が大きくなってから、選ぶお手本を変えればいいだけ。お手本は1年ごとに見直す前提で考えてください。
体の小さい子の戦い方は、それ自体がひとつの技術です。くわしくは体が小さい子の武器の作り方にまとめています。
03ポジションが同じ選手|見るべきは得点シーンじゃない
次がポジションです。ここでよくあるのが、守備の選手なのに、点を取る選手ばかり見ているというパターン。子どもがそうなるのは自然なこと(ハイライトは点のシーンばかりなので)ですが、親が少しだけ視野を広げてあげると、見え方が変わります。
見てほしいのは、その選手がボールを持っていない時間です。守備の選手なら、どこに立って相手を待っているか。中盤なら、味方がボールを持った瞬間に、どっちを向いてどこへ動いているか。前線の選手でも、点を取る前の5秒間の動き直しにこそ、まねる価値があります。ボールを持っている時間は試合中ほんの数分。残りの何十分をどう過ごすかが、そのまま上手さなんです。
映像を見ながら、親がひとつだけ質問すると効果が変わります。「今、この人ボール持ってないけど、何してた?」。答えは合っていなくてかまいません。ボールのない場所を見るクセがつくだけで十分です。ポジションごとの見どころはポジション別の役割をやさしく解説を参考に。
04入口は「かっこいい」でいい|憧れを否定しない
ここは、親がいちばん失敗しやすいところです。子どもの憧れを、大人の理屈で否定しない。これだけは守ってください。
「その選手はうちの子と体格がちがうから」「そのポジションじゃないでしょ」。正しいことを言っているようで、子どもには「好きなものを取り上げられた」としか伝わりません。サッカーを続ける原動力は、突きつめれば「かっこいい」です。髪型でも、ゴールしたあとのポーズでも、スパイクの色でもいい。入口は完全に見た目でかまわないんです。
現場でも、憧れの選手ができた子は、はっきりと練習の顔つきが変わります。前は言われて走っていた子が、自分から走るようになる。その入口を、大人が理屈でふさぐのはもったいない。否定せず、そこに「まねる中身」を足してあげるのが親の役割です。
子どもが「あの選手みたいになりたい」と言ったときに「プロは特別だから」と返すのは、いちばんもったいない返し方です。かわりに「どこがかっこよかった?」と聞いてみてください。「最後まで走ってた」「取られてもすぐ追いかけてた」——子どもの口から出てきた言葉は、そのまま次の練習のテーマになります。
憧れが強くなると、「同じスパイクがほしい」と言い出す時期も来ます。ここは気持ちを尊重しつつ、足に合うかどうかだけは大人が見る。プロと同じモデルでも、子ども向けのジュニアモデルなら足型に無理がありません。
△ここだけ注意:かなり細身というほどではないものの、甲が高い子はきつく感じることがあります。幅広・甲高タイプの子は、マジックテープの幅広モデルのほうが合います。上位モデルは1万円を超えますが、これはその半額前後。「憧れの見た目」と「足に合う」を両立させたいときの現実的な一足です。
05まねるのは技より習慣|走る量・切り替え・あいさつ
ここがこの記事のいちばん大事なところです。子どもがまねるべきは、技ではなく習慣。
技のモノマネは、正直そこまで長続きしません。足の裏でボールを転がすフェイントを1週間やって飽きる、というのはよくある光景です。でも、習慣のモノマネは一生ものの差になります。具体的には、この3つ。
- 走る量:ボールがないところで、どれだけ動き直しているか
- 切り替えの速さ:取られた瞬間、何秒で守りに戻っているか
- ふるまい:あいさつ、道具の扱い、負けたあとの態度
トップレベルの選手ほど、ボールを失った直後の反応が異常に速い。ここは体格も才能も関係なく、今日からまねできます。実際、現場でも「取られたら2秒で戻る」を合言葉にしたグループは、1か月で明らかに守備の局面が変わりました。技術は伸びるのに時間がかかりますが、切り替えは決めた日から変えられるんです。
① 取られたら、すぐ追う(考える前に足を動かす)
② ボールが来る前に、まわりを見る
③ 道具を大事に、あいさつは大きく
この3つは、体格もポジションも関係なく、すべての子がまねできます。試合を見ながら「今の、あの選手すぐ戻ったね」と1回言うだけでいい。
06憧れが折れたとき|移籍・引退・不調へのフォロー
見落とされがちですが、大事なのがここ。憧れの選手は、いつか必ず子どもを裏切ります。移籍していなくなる、ケガで出られなくなる、引退する、大事な試合で失敗する——。大人には当たり前でも、子どもにとってはけっこうな事件です。実際に「あの選手が出てないから、試合を見たくない」と言い出した子もいました。
このときのフォローは、その選手をかばうことでも、別の選手をすすめることでもありません。伝えるべきは「うまくいかない時間があるのが、プロでも普通だ」という事実のほうです。調子を落とした選手が、次のシーズンにどう戻ってきたか。ケガから復帰するまで何をしていたか。そこを一緒に追いかけると、憧れは「かっこいい人」から「同じように苦しんでいる人」に変わります。これが起きた子は強い。自分がベンチになった日も、折れなくなります。
子どもの憧れがしぼんだときに「もっと現実を見なさい」と正論を返すと、次から親に憧れの話をしなくなります。まず「残念だったね」で受け止める。そのうえで「この人、前にも同じような時期あったんだって」と事実を1つ添える。それだけで十分です。落ち込みが長く続いてサッカー自体を嫌がるようなら、無理に続けさせず休む日の過ごし方も考えてあげてください。
07現場の声+家でできる見方の作り方
最後に、監修コーチのチームで実際に聞こえてくる、保護者のリアルな声を紹介します。
「背の高い選手に憧れて、ずっと競り合いに負けてました。体格の近い選手を一緒に探したら、プレーの選び方が変わった」
「うちはディフェンスなのに、点を取る選手ばかり見てた。守る選手の映像を見せたら『こっちのほうがカッコいい』と言い出した」
「『取られたらすぐ追う』だけまねさせたら、コーチにほめられて帰ってきた。技より分かりやすかったみたい」
「憧れの選手が移籍していなくなって、一週間くらい落ち込んでました。その選手の昔の話をしたら持ち直しました」
家でできることは、実はとても簡単です。試合やハイライトを見るとき、親が1回だけ質問する。「今の人、ボール持ってないとき何してた?」「どこがかっこよかった?」。この2つで十分。解説する必要はありません。子どもが自分で言葉にした瞬間に、その動きは自分のものになり始めます。
そしてもうひとつ。お手本の選手は1年に1回、見直してください。体は変わります。去年ぴったりだったお手本が、背が伸びた今年はもう合っていない、というのはよくあること。お手本は固定するものではなく、更新するものです。
よくある質問
子どもがまったく体格のちがう選手に憧れています。やめさせるべき?
やめさせる必要はありません。好きな選手は好きなままでいいんです。そのうえで『まねる用の選手』をもう1人つくってあげてください。憧れは気持ちの燃料、まねる相手は練習の教材、と役割を分けると両立します。否定から入ると、サッカーの話自体をしてくれなくなります。
お手本の選手は何人くらいがいいですか?
2人がちょうどいいです。1人は純粋に好きな選手(かっこいいから)、もう1人は体格とポジションが近い『まねる用』の選手。3人以上になると子どもの中で混ざってしまい、プレーの軸がぶれます。半年〜1年に1回見直すのがおすすめです。
ポジションがまだ決まっていない低学年はどうすれば?
低学年はポジションを固定しないチームが多いので、無理に合わせなくて大丈夫です。この時期は『走る量』『取られたらすぐ追う』『あいさつ』といった習慣をまねる対象にしてください。ポジションが決まってきたら、そのときに役割の近い選手を探し直せば十分間に合います。
まねさせたいのに、子どもが映像を見たがりません。
無理に見せなくて大丈夫です。長い試合を最後まで見るのは、子どもには苦行のこともあります。短いハイライトを数分だけ、しかも『子どもが見たいもの』から入ってください。親が見たい試合につき合わせると、サッカーを見ること自体がきらいになります。
憧れの選手が引退・移籍して落ち込んでいます。どう声をかければ?
まず『残念だったね』と受け止めてあげてください。そのうえで、その選手が過去に不調やケガをどう乗り越えたかを一緒に調べると、憧れが『かっこいい人』から『同じように苦しむ人』に変わり、逆に強くなります。落ち込みが長引いてサッカー自体を嫌がるようなら、少し休ませる判断も必要です。
お手本が決まったら、あとは体を動かすだけ。足に合わないシューズは、まねしたい動きの邪魔になります。学年・足型からピッタリの一足を選びたい方は、比較ページをどうぞ → 比較ランキングで学年・足型からピッタリのシューズを選ぶ
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
少年サッカーの育成年代を指導して3年目、これまで延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断力・認知・立ち位置・パススピード・切り替え、GKからのビルドアップを軸に、「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。毎月、練習設計と自己内省をレポートにまとめてPDCAを回す、分析型の指導者です。
現場でサッカー未経験の保護者の声を大切にしてきました。専門用語をゼロに噛み砕き、「親が今日からできること」に翻訳してお届けします。
当サイトの用品・ルール・練習の記事は、公開前に監修コーチが内容を確認しています。事実に関わる記述は一次情報・公式情報にあたって整理しています。

