チームのお便りに書かれた「トレセン推薦のお知らせ」の一行。周りの保護者は当たり前のように話しているけれど、正直、トレセンが何なのかよく分からない。「受かるとプロに近づくの?」「推薦されなかったうちの子はダメなの?」——聞くに聞けないまま、モヤモヤしていませんか。
トレセンとは、地域の上手な選手を集めて、より良い環境でトレーニングする選抜制度のこと。地区→都道府県→さらに上へと階層があります。ただし「トレセン=プロへの切符」ではなく、「選ばれなかった=才能がない」でもありません。小学生年代の選考は、体の成長の早い・遅いに大きく左右されます。一喜一憂しすぎないのが、親のいちばん大事な心構えです。
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。チームの選手をトレセンに推薦する側として毎年この時期に感じるのは、「受かった家庭」より「落ちた家庭」のほうが、その後の関わり方が難しいということ。現場で見てきた実例も交えながら、制度の仕組みから「落ちたとき」まで、順番にお話しします。
なお、先にお断りを一つ。トレセンの名称・回数・選考方法は地域によってかなり差があります。この記事は一般的な仕組みの説明として読み、詳細はお住まいの地区の案内で確認してください。
01トレセンとは?仕組みと階層
トレセンは「トレーニングセンター」の略で、日本サッカー協会が進める選手育成の仕組みです。狙いは一言でいうと、「上手な子を、上手な子の中で鍛える」こと。所属チームの枠を越えて、地域の力のある選手を集めてトレーニングします。
階層は、おおまかにピラミッド型です。
- 地区トレセン:市や地区の単位。各チームからの推薦や選考会で選ばれます。多くの子にとって最初の入り口です。
- 都道府県トレセン:地区トレセンで力を示した選手が、さらに選考されて進みます。
- その上の階層(地域・ナショナル):複数の都道府県からなるブロック、さらに全国レベルへと続きます。ここまで進むのはごく一握りです。
対象年代や活動頻度(月1回程度〜)は地域によって異なります。大事なのは、トレセンが「大会で勝つためのチーム」ではなく、あくまで育成の場だということ。選ばれると、質の高い仲間との練習機会と、「自分は井の中の蛙だった」と知る経験が手に入ります。
02選考の流れ(推薦から選考会まで)
一般的な流れはこうです(繰り返しますが、地域差があります)。
①チームからの推薦:所属チームのコーチが、基準に合う選手を地区に推薦します。②選考会(セレクション):推薦された選手が集まり、ゲーム形式中心の選考を受けます。③選出・活動開始:選ばれた選手が定期的なトレセン活動に参加します。多くの地域で、選考は年度ごとにやり直しです。
親として知っておきたいのは、入り口の多くが「チームの推薦」だということ。つまり日々の練習と試合こそが、実質的な一次選考です。「トレセン対策」のような特別な準備より、普段のプレーを見てもらうのが本筋になります。
選考会当日の雰囲気や持ち物、親の心構えは、一般的なセレクションと共通する部分が多いので、こちらも参考になります → セレクションで見られるポイントと当日の準備
03受かる子の傾向・見られているポイント
「どんな子が選ばれるんですか?」——推薦する側として、正直にお答えします。見られているのは、派手なドリブルやゴール数だけではありません。
- 判断の速さ:ボールを受ける前に周りを見ているか。「止まってから考える」子と「考えてからボールを受ける」子の差は、初見でもはっきり分かります。
- 止める・蹴るの正確さ:初めて組む相手と即席でプレーするので、基本技術の精度がそのまま信頼になります。
- 攻守の切り替え:ボールを失った瞬間に足が止まらないか。ここは短い選考時間でも必ず目に入ります。
- 声と態度:初対面の仲間に自分から声をかけられるか、ミスした仲間にどう接するか。意外なほど見られています。
そして、ここが小学生年代のいちばん大事なところです。この時期の選考は、体の成長の早さにどうしても影響されます。同じ学年でも、体の成長には数年分の幅があると言われます。体が早く大きくなった子は、当たりの強さや速さで目立ちやすい。逆に晩熟の子は、実力があっても埋もれやすい——これは選ぶ側も分かっていて、それでも完全には避けられない、この年代の選考の宿命です。
だからこそ、「今、選ばれるかどうか」と「将来どこまで伸びるか」は、別の話。体の小さい子の伸ばし方は、こちらで詳しく書いています → 体が小さい子のサッカー
04落ちたとき、親はどうする?
さて、本題です。トレセンは選抜制度なので、選ばれない子のほうが多数派。つまり「落ちたときの親の対応」こそ、この記事でいちばんお伝えしたいことです。
「同じチームの仲良しの子だけ受かって、うちは落選。子どもより先に、私のほうが落ち込んでしまいました」
「「トレセン落ちたのは練習が足りないからだ」と言ってしまい、それから子どもがサッカーの話をしなくなりました」
2つ目の声は、現場でも本当によく起きるすれ違いです。やってはいけない対応を先にまとめます。
・「なんで落ちたんだろうね」と原因探しを始める(子どもには「お前が悪い」と届きます)
・「あの子が受かってあなたが落ちるなんて」と選考や他の子を悪く言う(努力を軽くする言葉です)
・親のほうが引きずって、次の試合で力む(子どもは親の落胆にいちばん敏感です)
おすすめの対応は、シンプルに2つです。
①その日は結果の話を短く終える:「残念だったね。でも推薦されたこと自体がすごいんだよ」で十分。長い反省会はいりません。②後日、本人が前を向いたタイミングで「次に何を磨くか」を一つだけ決める:うちのチームでも、選考に漏れた子が「切り替えの速さ」を1つだけ課題にして練習を続け、翌年度に選ばれた例があります。彼を伸ばしたのは落選そのものではなく、落選を「課題が1つ見つかった日」に変えた周囲の関わりでした。
そして忘れないでください。トレセンに縁がないままジュニアユースで伸びる子も、現場ではたくさん見ます。この年代の評価は、まだ何も決めません。
05トレセンとの上手な付き合い方
最後に、受かっても落ちても共通する「付き合い方」を。
受かった場合:おめでとうございます。ただし気をつけたいのは、親子で「トレセン選手」の肩書に寄りかからないこと。活動が増えるぶん疲労も増えます。所属チームがおろそかになったり、休養が削れたりしては本末転倒です。
落ちた場合:トレセンは唯一の道ではありません。日々のチーム練習・自主練・良い指導者との出会い——伸びる道は何本もあります。中学年代の進路(ジュニアユース等)を考え始めた家庭は、こちらもどうぞ → ジュニアユースとは?中学サッカーの進路
どちらの場合も、親の役割は変わりません。評価は制度に任せて、家は「評価されない場所」にしてあげる。それが、選考のある世界で戦う子どもへの、いちばんの支えになります。
よくある質問
トレセンに選ばれないと、プロにはなれませんか?
そんなことはありません。トレセンは有力な育成の場の一つですが、唯一の道ではありません。小学生年代の選考は体の成長の早い・遅いに左右されやすく、この時期に選ばれなくても、中学・高校年代で大きく伸びる選手は現場でも珍しくありません。「今の選考結果」と「将来の伸び」は分けて考えてあげてください。
トレセンの選考は毎年ありますか?
多くの地域では年度ごとに選考が行われ、毎年チャレンジの機会があります。ただし回数・時期・方法は地域によってかなり差があるため、正確な情報は所属チームのコーチや地区の案内で確認してください。今年落ちても来年また挑戦できる、と親子で知っておくだけでも気持ちが軽くなります。
親からコーチに「推薦してください」とお願いしてもいいですか?
率直に言うと、推薦の売り込みはおすすめしません。推薦はコーチが日々のプレーを見て判断するもので、親の働きかけで変わるものではないからです。ただし「トレセンに興味があります。今の課題を教えてください」という聞き方なら、コーチも歓迎です。目標を共有すること自体は、とても良いことです。
トレセンに受かったら、費用はかかりますか?
参加費・交通費・ウェア代など、一定の費用がかかるのが一般的です。金額は地域や活動内容によって差が大きいので、選出時の案内で確認してください。活動が増えると送迎の負担も増えるため、家庭のスケジュールと合わせて無理のない範囲で参加を考えるのがおすすめです。
落ちたことを、子どもにどう伝えればいいですか?
事実は隠さず、短く伝えるのがおすすめです。「今回は選ばれなかったよ。でも推薦されたこと自体がすごいこと」と、挑戦した事実を認める言葉をセットにしてください。原因探しや長い反省会はその日はせず、本人が前を向いたタイミングで「次に磨くこと」を一つだけ一緒に決める。落選を「課題が見つかった日」に変えられれば、それは良い経験になります。
最後に、今夜できる一手を一つだけ。トレセンの結果がどうであれ、今夜は「最近のプレーで、一番よかったところ」を一つだけ本人に伝えてください。選考の世界に足を踏み入れた子には、評価とは関係なく自分を見てくれる人が必要です。
そして、「トレセンって何?」と聞けずにここまで調べたあなたへ。制度を知ろうとするのは、子どもの世界を理解しようとしている証拠です。受かっても落ちても、あなたの子のサッカーは続いていきます。どうか結果の日も、いつもどおりの夕飯を。
道具の面から子どもを支えたい方はこちらもどうぞ → スパイク選びのランキング
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
少年サッカーの育成年代を指導して3年目、これまで延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断力・認知・立ち位置・パススピード・切り替え、GKからのビルドアップを軸に、「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。毎月、練習設計と自己内省をレポートにまとめてPDCAを回す、分析型の指導者です。
現場でサッカー未経験の保護者の声を大切にしてきました。専門用語をゼロに噛み砕き、「親が今日からできること」に翻訳してお届けします。
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