「うちの子、当たり負けするんです」——これは、少年サッカーの保護者から最も多く聞く悩みのひとつです。相手にぶつかられるとよろける。ボールに先に触っているのに、最後は相手が持っていく。体が小さい子の親ほど、この場面を見るのがつらい。ですが、球際の強さは体格ではありません。日本代表の遠藤航選手は身長178センチ。ヨーロッパのセンターラインでは決して大きくない。それでもドイツで「デュエル王」と呼ばれるまでになりました。この記事では、その強さの正体を分解して、小学生が今日から変えられる部分だけを取り出します。
球際で勝つ子は、力が強いのではなく先に触れる場所に、先に体を置いているだけです。決め手は3つ。①相手より半歩早く動き出す ②ボールと相手の間に体を入れる ③低く構える。とくに③は今日から変えられます。ひざを曲げて重心を落とすだけで、同じ体格でもよろけなくなる。体を大きくするのは何年もかかりますが、姿勢は今日変えられます。
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。監修コーチのチームに、学年で一番小さい子がいました。体重は同学年の平均より10キロ近く軽い。当然、当たり負けします。本人も「ぶつかるのが怖い」と言っていました。そこでボールの取り合いだけを、ひざを曲げて低く構えて入る——これ一点だけを2か月続けてもらいました。結果、チーム内のミニゲームで球際に勝った回数が、月ごとの記録で週あたり3回から11回まで増えました。身長は2か月で1センチ伸びただけです。変わったのは体ではなく、入り方でした。
01遠藤航が「デュエル王」と呼ばれた理由
遠藤航選手は、ドイツ・ブンデスリーガのシュツットガルトで長くプレーし、その後リバプールへ移籍した日本代表のミッドフィールダーです。
ブンデスリーガではデュエル(1対1の競り合い)の勝利数でリーグ全体の1位を記録したシーズンがあり、日本のメディアでも「デュエル王」として大きく報じられました。相手はドイツやアフリカ、東欧の、明らかに体格で上回る選手たちです。
ここで大事なのは、遠藤選手が特別に大きいわけではないという点です。公表されている身長は178センチ。ヨーロッパの中盤としては平均か、やや小さいくらい。にもかかわらず、体格で上回る相手から何度もボールを奪い返してきました。
つまりデュエルの勝敗を決めているのは、体格そのものではないことが、彼のプレーで証明されています。
「体が小さいから仕方ない」と親が先に言ってしまうと、子どもは球際から降りてしまいます。降りた子は、ますます経験を積めない。小さいことは、勝てない理由にはならない——この事実を伝えてあげるだけで、挑戦する回数が変わります。
02球際の強さ=力ではない|分解すると3つ
球際の場面を、スローモーションで分解してみます。すると、ぶつかった瞬間に勝負がついているように見えて、実はぶつかる前にほとんど決まっていることが分かります。
① タイミング=相手より先に動き出せているか(接触の前)
② 位置=ボールと相手のあいだに体があるか(接触の瞬間)
③ 姿勢=重心が低いか(接触の全体)
力の強さは、この3つが同じだったときに初めて効いてきます。
小学生の球際では、①と②がそろっていない場面が圧倒的に多い。同じタイミングで、同じ場所から、真正面からぶつかっている。これでは体が大きいほうが勝ちます。当たり前です。
逆にいうと、タイミングと位置をずらせば、体格差は帳消しにできる。ここが小学生にとっての希望です。
03半歩早く動く|勝負は接触の前に終わっている
球際で最初に効くのが動き出しの早さです。それも、1歩ではなく半歩。
ルーズボールが転がったとき、相手より半歩早く踏み出せていれば、ボールに先に触れます。先に触れれば、相手はもう自分の体の外側からしか奪いに来られない。先に触った時点で、体格差の話は半分終わっています。
では、どうすれば半歩早くなるのか。走る速さの問題ではありません。ボールが誰のものでもなくなる瞬間を、先に予測できているかです。
- 相手のトラップが少し大きくなった
- 味方のパスが少しずれた
- 相手がボールを見ながら振り向いた
この瞬間に「来る」と分かっている子は、体が先に動き出します。予測は、見る回数を増やすだけで確実に伸びます。
球際に強い子は、たいていボールを持っていないときによく周りを見ています。次に何が起きるかを知っているから、半歩早く出られる。「球際が弱い」と「周りを見ていない」は、別々の課題に見えて、実は同じ根っこであることが多いです。
04体を入れる|ボールと相手のあいだに立つ
次が体を入れるという動作です。少年サッカーでよく言われますが、具体的に何をするのかまで教わっている子は多くありません。
体を入れるとは、ボールと相手のあいだに、自分の体を置くことです。相手から見ると、ボールに行くには自分の体をどけないといけない状態になる。
大事なのは向きです。相手に正面を向けるのではなく、相手に対して半身(横向き)で入る。正面を向くと押し合いになり、力比べになります。横向きなら、肩と背中で相手をブロックしながら、足でボールを扱えます。
腕については、少し補足が要ります。腕を相手に置く(触れて距離を保つ)のは反則ではありませんが、押すと反則です。この線引きは子どもには難しいので、「さわるだけ。押したらダメ」と、動詞で分けて伝えるのが実務的です。
05低く構える|今日変えられる唯一のもの
そして、この記事で一番伝えたいのがこれです。
球際に入るとき、ひざを曲げて重心を落とす。それだけ。
棒立ちで当たると、重心が高いので簡単に押される。ひざを曲げて腰を落とすと、同じ体重でも倒れにくくなります。体を大きくするには何年もかかりますが、姿勢は今日変えられます。
物理的にも理屈は単純で、重心が低いほど倒れにくい。相撲の力士が腰を落とすのも、ラグビーの選手が低く当たるのも同じ理由です。
子どもに伝えるときは、「重心を落とせ」ではまず伝わりません。効くのはこの言い方です。
- 「おしりを下げて」
- 「ひざでボールを守る」
- 「いすに座るみたいに」
冒頭で紹介した、学年で一番小さかった子。この子が2か月でやったのは、この「おしりを下げる」だけでした。それで球際に勝てる回数が週3回から11回になった。技術も体格も変えていません。
06家でできる球際の練習4つ
球際は「ぶつかる練習」ではありません。タイミング・位置・姿勢を身につける練習です。だから家でもできます。
01おしり下げキープ
ボールを片足の裏で押さえた状態で、ひざを曲げておしりを下げたまま30秒キープ。親が横から肩を軽く押しても、ボールを取られないように耐えます。ふらついたら重心が高い証拠です。
02背中ブロック
親と子でボールを挟み、子は背中と肩を親に向けた状態(半身)でボールをキープ。親はボールを取りに行きます。子は正面を向かず、横向きのまま足だけでボールを動かすのがルールです。
03半歩ダッシュ
親がボールを不規則に転がし、子は転がった瞬間に反応してボールに触りに行きます。親も同時に手で取りに行くと、先に触る競争になります。距離は3メートルで十分です。
04腕は置くだけゲーム
向かい合って立ち、片手だけを相手の体に触れさせて距離を保ちます。押したら負け、触れられなくなっても負け。「置く」と「押す」の違いを体で覚えるための遊びです。
「「おしりを下げて」だけで、当たり負けが目に見えて減りました。半年悩んでいたのが嘘みたいです」
「体が小さいのを本人が気にしていたけど、遠藤選手の話をしたら急にやる気になりました」
「腕で押してファウルばかりだったのが、「さわるだけ」で本当に減りました」
「球際が弱いのは性格だと思っていたけど、周りを見てないだけと分かって納得しました」
低く構える姿勢は、足元が滑らないことが前提です。すり減ったスパイクだと、腰を落とした瞬間に足が流れて踏ん張れません。球際が急に弱くなったと感じたら、まず靴底を見てください。
△ここだけ注意:新しいスパイクを買えば球際に勝てるようになる、という話ではありません。ただしスタッドがすり減った状態では、腰を落としても足が流れて踏ん張れないのは事実です。ソールを見て平らになっていたら、まずそこが原因の可能性があります。買い替えの目安はスパイクの寿命と買い替えサインで確認できます。
07「当たりに行け」と言ってはいけない理由
最後に、声かけの話をさせてください。
球際が弱い子に対して、つい出てしまうのが「もっと当たりに行け」「気持ちで負けるな」という言葉です。気持ちは分かります。ただ、この声かけには2つの問題があります。
1つめ。何をすればいいか分からない。「当たりに行け」と言われた子ができるのは、真正面から突っ込むことだけです。そしてそれは、この記事で見てきたとおり一番負けやすい入り方です。指示どおりにやったのに負ける。子どもは混乱します。
2つめ。怖さを否定してしまう。体格差のある相手にぶつかるのは、実際に怖い。その怖さを「気持ちの問題」にされると、子どもは怖いと言えなくなります。言えなくなった怖さは消えません。ただ隠れるだけです。
代わりに使えるのが、動作の言葉です。
「当たりに行け」→ 「おしり下げて入ろう」
「気持ちで負けるな」→ 「先に半歩出よう」
「体を入れろ」→ 「相手に背中を向けて」
どれも、やることが1つに決まる言葉です。子どもは、やることが決まっていれば動けます。
08よくある質問
体が小さい子でも球際で勝てるようになりますか?
なります。球際の勝敗を決めるのは、力の強さより「タイミング・体を入れる位置・姿勢の低さ」の3つだからです。日本代表の遠藤航選手は身長178センチとヨーロッパの中盤では大きくありませんが、ブンデスリーガでデュエル勝利数リーグ1位を記録しています。小学生の球際は、同じタイミングで真正面からぶつかっている場面が非常に多く、そこをずらすだけで体格差はかなり埋まります。
今日からできることを1つだけ挙げるとしたら何ですか?
ひざを曲げて重心を落とすことです。棒立ちで当たると簡単に押されますが、腰を落とすと同じ体重でも倒れにくくなります。子どもには「重心を落として」ではなく「おしりを下げて」「いすに座るみたいに」と言うと伝わります。体を大きくするには何年もかかりますが、姿勢は今日変えられます。
「体を入れる」とは具体的にどうすることですか?
ボールと相手のあいだに自分の体を置くことです。ポイントは向きで、相手に正面を向けるのではなく半身(横向き)で入ります。正面を向くと押し合いになり、体格差がそのまま出てしまいます。横向きなら肩と背中で相手をブロックしながら、足でボールを扱えます。腕は相手に「置く」のは反則ではありませんが「押す」と反則なので、子どもには『さわるだけ、押したらダメ』と動詞で分けて伝えると通じます。
球際が弱いのと、周りを見ていないのは関係ありますか?
深く関係しています。球際に強い子は、ボールを持っていないときによく周りを見ています。相手のトラップが大きくなった、味方のパスがずれた——そうした「ボールが誰のものでもなくなる瞬間」を先に予測できるから、半歩早く動き出せる。走る速さの問題ではありません。球際の強化は、見る回数を増やすところから始めても効果があります。
「当たりに行け」と言うのはダメですか?
あまり勧めません。理由は2つで、まず子どもができるのは真正面から突っ込むことだけになり、それが最も負けやすい入り方だからです。もう1つは、体格差のある相手にぶつかる怖さを「気持ちの問題」にしてしまうと、子どもが怖いと言えなくなるからです。代わりに『おしり下げて入ろう』『先に半歩出よう』のように、やることが1つに決まる動作の言葉を使ってください。
家でできる球際の練習はありますか?
あります。球際は「ぶつかる練習」ではなくタイミング・位置・姿勢の練習なので、家でも成立します。片足でボールを押さえて腰を落としたまま30秒キープする、背中を親に向けた半身でボールをキープする、不規則に転がしたボールへ先に触る競争をする、片手を相手に置くだけで距離を保つ——この4つで十分です。押す力は本気の3割で構いません。
球際で先に触れるようになると、次に必要になるのは触った後にどこへ置くかです。奪った瞬間に前を向ければ、そのまま攻撃になります → 半身で受ける|前を向けない子が変わる教え方 守備全体の考え方は少年サッカー 守備の基本へ。
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
育成年代の指導3年目、延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断・認知・立ち位置を軸に「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。
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