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観戦ガイド

クロップとペップ|正解が2つあると知ると、試合の見方が変わる

PITCH NAVI 編集部|2026.08.17 更新|読了 約12

監修現役 U10・8人制サッカーコーチ指導3年目・延べ50名を指導

「うちのチームは蹴ってばかりで、つなごうとしない」「隣のチームはパスを回していて上手そうに見える」——保護者からいちばんよく出てくる比較です。どちらが正しいのか、と聞かれます。答えを先に言うと、世界最高峰のサッカーでも、正反対の2つのやり方が同時に成功してきました。ペップ・グアルディオラとユルゲン・クロップです。この2人を並べて見ると、チームのやり方を採点するのをやめられます。

\ 時間がない人へ・先に結論 /

グアルディオラ=ボールを持ち続けて、相手を動かしてズレを作る。
クロップ=ボールを手放してでも、奪い返した直後のいちばん崩れている瞬間を狙う。

どちらも優勝を重ねています。つまり「つなぐ」も「速く前へ」も、それ自体は正解でも不正解でもありません。違うのは何を増やして、何を差し出すかの取引です。

そして2人が同じことを言っている部分があります。それが、子どもに本当に必要な部分です。

この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。監修コーチが、練習試合で同じチームに前半と後半で別々の約束を出したことがあります。前半は「後ろからつなぐ・簡単に蹴らない」、後半は「奪ったら3秒以内に前へ」。

結果はシュート数が前半4本・後半7本、ボールを失った回数が前半9回・後半17回でした。後半のほうがチャンスは増え、そのぶん失う回数も倍近くになった。どちらが良いという話にはなりませんでした。増やしたいものと、差し出すものが違っただけです。

01「つなぐチーム」と「蹴るチーム」、どちらが正しいのか

この問いの立て方そのものに、少しだけ無理があります。

保護者からよく出る比較
「うちは蹴ってばかりで、つなぐ意識がない」
「あのチームはパスを回していて、育成をちゃんとやっているように見える」
「うちのコーチは前に蹴れとしか言わない」

気持ちはよく分かります。パスがつながる試合は、見ていて上手そうに見えるからです。ただ、つないでいる=良い育成、蹴っている=手抜きという読み方は、事実として正しくありません。

コーチのアドバイス

判断の分かれ目は「つないでいるか」ではなく「理由があるか」です。
つなぐチームでも、相手を動かす目的がないただの横パスなら意味は薄い。蹴るチームでも、誰がこぼれ球を拾うか決まっているなら立派な設計です。見るべきは方法ではなく、その裏に約束があるかどうかです。

02ペップのやり方|持って、相手を動かす

ジョゼップ・グアルディオラは、バルセロナ、バイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・シティを率いて、行く先々でリーグ優勝を重ねてきた監督です。

やろうとしていることは、単純化するとこうなります。

グアルディオラ側の考え方

① ボールを持っているあいだ、相手は攻められない
② パスを回すのは、相手を動かしてズレを作るため(回すこと自体が目的ではない)
③ 誰がどこに立つかを、あらかじめ決めておく
④ だから、ボールを失う回数そのものが少なくなる

本人が繰り返し語ってきたのは、ボールを持つこと自体は目的ではないという点です。持つのはズレを作るための手段で、ズレができたら一気に突く。ここを取り違えると「回しているだけで前に進まないサッカー」になります。

差し出しているものは、速さです。じっくり動かすぶん、一発で終わる形は減ります。

03クロップのやり方|手放して、奪い返す瞬間に賭ける

ユルゲン・クロップは、マインツ、ドルトムント、リヴァプールを率いた監督です。ドルトムントでは当時圧倒的だった相手を抑えてリーグ優勝を果たし、リヴァプールでも長く続いた優勝待ちを終わらせました。

こちらの考え方は、ほぼ逆を向いています。

クロップ側の考え方

① 相手がボールを奪った直後こそ、いちばん形が崩れている
② だから、失った瞬間に全員で奪い返しに行く(ゲーゲンプレス=奪い返しの守備)
③ 高い位置で奪えれば、少ない手数でゴールに近づける
④ 攻撃の始まりは、パスではなく「奪う」ことにある

クロップ自身が、奪い返す動作そのものが、どんな司令塔よりも良いパスを生むという趣旨のことを語ってきました。これが分かると、ボールを失うことが必ずしも失敗ではないという発想が理解できます。

差し出しているものは、体力と安定です。全員で走るので消耗しますし、奪い返せなかったときは一気にピンチになります。

042人が同じことを言っている部分

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。正反対に見える2人が、まったく同じことを要求しています。

共通している3つ

① 立ち位置を決めている
どちらも「なんとなく」立っていません。持つ側も、失った直後の側も、誰がどこにいるかが決まっています

② 切り替えが速い
攻守が入れ替わった瞬間の反応が命。ここが遅いと、どちらのやり方も成立しません

③ ボールを持っていない時間の設計に、いちばん力を注いでいる
どちらも「ボールを持ったら何をするか」より前に、持っていないときの決めごとを作っています

コーチのアドバイス

つまり、少年サッカーで先に身につけるべきなのはつなぐ技術でも、蹴る力でもありません。
立ち位置切り替えの速さ——この2つは、どちらの道に進んでも必ず要ります。チームの方針が変わっても、中学で環境が変わっても、無駄になりません。

05実測|同じチームで2つの約束を試したら

冒頭の練習試合を、もう少し詳しく書きます。

15分ハーフ・同じメンバー・約束だけを変えた結果
前半(後ろからつなぐ)… シュート4本 / ボールを失った回数9回 / 自陣でのミスからの失点1
後半(奪ったら3秒以内に前へ)… シュート7本 / ボールを失った回数17回 / 相手陣内で奪ってからの得点2
選手の疲労は、後半のほうが明らかに大きかった

読み取れることは3つあります。

1つ目。後半のほうがチャンスは増えました。速く前へ運べば、単純に前に行く回数が増えるからです。

2つ目。そのぶん失う回数はほぼ倍でした。速く行けば精度は落ちます。

3つ目。これがいちばん大事なのですが、どちらの約束でも、うまくいかなかった子は同じ子でした。周りを見ていない子は、つなぐ約束でも詰まり、速く前へ行く約束でも走り出しが遅れる。約束の中身より、見ているかどうかのほうが結果を左右していました。

06わが子のチームがどちらでも困らない見方

ここまでを踏まえると、保護者としての立ち位置は決まります。

やらないほうがいいこと

チームの方針を採点する(つなぐから良い/蹴るから悪い、と決める)
家で別の指示を出す(チームが前へ蹴れと言うのに、家では回せと教える)
コーチのやり方を子どもの前で否定する(子どもが板ばさみになります)

かわりにやること

「今日のチームの約束は何だった?」と聞く
答えられるなら、そのチームには設計があります。答えられないなら、聞いておいでと送り出す

立ち位置と切り替えだけは、どちらでも効くので家で扱う
方針が合わないと感じたら、否定ではなく「合うかどうか」で判断する

移籍を勧めているわけではありません

方針が合わないことと、チームが悪いことは別です。クロップのサッカーに向く選手と、グアルディオラのサッカーに向く選手が、プロの世界でも分かれるのと同じことが起きているだけかもしれません。移るかどうかは、方針だけでなく人間関係・通いやすさ・出場機会を合わせて判断する話になります。

07親子で試合を見るときの3つの視点

プロの試合を一緒に見るときに使える見方です。技術の知識は要りません。

01ボールを失った直後の3秒だけを見る

01DRILL

奪われた瞬間に、周りの選手が前に出るか(奪い返しに行く)、後ろに戻るか(形を作り直す)を見ます。どちらの考え方のチームかが、この3秒でだいたい分かります。

目安:1試合に3回
ポイント:テレビはボールを映すので、少し引いた画のときに見てください。ゴール裏からの映像だと分かりやすくなります。

02ゴールキーパーがボールを持ったときを見る

02DRILL

味方が近くに寄ってくるか、前に走って離れるか。寄れば「つないで運ぶ」、離れれば「蹴って競る」。チームの狙いが最も分かりやすい場面です。

目安:1試合に3回
ポイント:子どもに先に予想させると盛り上がります。「今、どっちだと思う?」と聞いてから見る形にしてください。

03点が入った1つ前のプレーをさかのぼる

03DRILL

ゴールそのものではなく、その1つ前・2つ前を思い出します。「どこで奪ったか」「誰が動いてスペースを空けたか」を言葉にします。

目安:得点のたびに
ポイント:録画なら巻き戻して確認できます。この見方に慣れると、子どもは自分の試合でも「ゴールの前」を意識するようになります。
💬 実際にあった保護者の声

つなぐのが正解だと思い込んでいたので、正反対のやり方が両方勝っていると知って気が楽になりました

4年生のお子さんの保護者

「今日の約束は何だった?」と聞くようにしたら、本人がコーチの話を聞いて帰ってくるようになりました

5年生のお子さんの保護者

失った直後の3秒を見る、という視点でテレビを見たら、子どもより私が夢中になりました

3年生のお子さんの保護者

チームのやり方を家で否定していたことに気づいて、やめました

6年生のお子さんの保護者
※ 監修コーチが少年サッカーの現場で実際に聞いた声です(個人が特定されない形で掲載しています)。感じ方には個人差があります。

08よくある質問

Q

つなぐサッカーと蹴るサッカー、どちらが子どものためになりますか?

A

方法そのものでは決まりません。世界最高峰でも、ボールを持ち続けるグアルディオラと、手放してでも奪い返す瞬間を狙うクロップが、どちらも優勝を重ねてきました。見るべきは方法ではなく「理由があるか」です。目的のない横パスは意味が薄く、誰がこぼれ球を拾うか決まっている蹴り方は立派な設計です。

Q

ゲーゲンプレスとは何ですか?

A

ボールを失った直後に、全員で奪い返しに行く守備の考え方です。相手が奪った瞬間は相手の形がいちばん崩れているので、そこを突けば高い位置で奪い返せてゴールに近づける、という発想に立っています。クロップ自身が、奪い返す動作そのものがどんな司令塔よりも良いパスを生むという趣旨のことを語ってきました。差し出しているのは体力と安定性です。

Q

グアルディオラは、ボールを持つことが目的なのですか?

A

むしろ逆です。持つこと自体は目的ではなく、パスを回すのは相手を動かしてズレを作るためだと繰り返し語ってきました。ズレができたら一気に突きます。ここを取り違えると、回しているだけで前に進まないサッカーになります。少年サッカーで起きる「前が空いているのに横に出す」も、同じ取り違えです。

Q

正反対の2人に、共通点はあるのですか?

A

3つあります。①誰がどこに立つかを決めていること、②攻守が入れ替わった瞬間の切り替えが速いこと、③ボールを持っていない時間の設計にいちばん力を注いでいること。つまり少年サッカーで先に身につけるべきは、つなぐ技術でも蹴る力でもなく、立ち位置と切り替えです。この2つはどちらの道に進んでも無駄になりません。

Q

チームの方針が自分の考えと違うとき、家でどうすればいいですか?

A

家で別の指示を出すのは避けてください。子どもが板ばさみになり、どちらの指示も実行できなくなります。かわりに「今日のチームの約束は何だった?」と聞いてください。答えられるならそのチームには設計があります。家では立ち位置と切り替えだけを扱えば、どちらの方針とも衝突しません。

Q

テレビでプロの試合を見るとき、子どもと何を見ればいいですか?

A

3つあります。①ボールを失った直後の3秒(前に出るか、戻るか)、②ゴールキーパーがボールを持ったとき(味方が寄るか、離れるか)、③点が入った1つ前・2つ前のプレー。とくに②はチームの狙いがいちばん分かりやすく、見る前に子どもへ予想させると理解が進みます。

グアルディオラの考え方をもう一段くわしく知るなら → ポジショナルプレーとは 「回すこと自体が目的になる」問題はボール保持は手段でしかない、切り替えの3秒を家で扱うなら攻守の切り替え(トランジション)へ。

この記事の監修
監修現役 U10・8人制サッカーコーチ

サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる

育成年代の指導3年目、延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断・認知・立ち位置を軸に「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。

用品・ルール・練習の記事は、公開前に監修コーチが内容を確認し、事実に関わる記述は一次情報にあたって整理しています。監修者について →

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