試合中、コーチの「声出していこう!」の声が響く。周りの子は「ヘイ!」「こっち!」と叫んでいるのに、うちの子だけ黙々とプレーしている。帰り道に「もっと声出したら?」と言ってみても、「うん…」と下を向くだけ。家ではあんなにおしゃべりなのに、ピッチでは別人みたいに静か——。おとなしい子の親なら、一度は胸がチクッとした場面ではないでしょうか。先に言います。声が出ないのは、やる気がないからでも、サッカーに向いていないからでもありません。この記事では、性格を変えずに声を出せるようにする具体策と、親が家でできる関わり方をお伝えします。
声が出ない一番の理由は、性格の前に「何を言えばいいか分かっていない」こと。だから正解は「もっと声出せ」と迫ることではなく、言う言葉をあらかじめ決めておくことです。最初のひと言は「ヘイ!」でも「ナイス!」でもOK。そして家で親が「声出せ」と追い打ちをかけるのは逆効果。おとなしさは直すものではなく、よく見て考えている強みとして伸ばせます。
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。うちのチームにも、声がまったく出ない子は毎年必ずいます。ある子は、1年間チームで一番静かでしたが、「味方がいいプレーをしたら『ナイス』だけ言おう」と役割をひとつ決めたところ、3ヶ月後には自然と「こっち空いてる!」まで言えるようになりました。変わったのは性格ではなく、「言う言葉を持っているかどうか」。この順番を知っているだけで、親の関わり方は大きく変わります。
01「声が出ない」の中身は3種類ある
ひとくちに「声が出ない」と言っても、理由は子どもによって違います。大きく分けると3種類です。
- ①性格タイプ:もともと控えめで、大きな声を出すこと自体が恥ずかしい。日常生活でも声が小さめ。
- ②自信タイプ:「間違ったことを言ったらどうしよう」「呼んだのにパスが来なかったら恥ずかしい」と、失敗が怖くて声が出ない。
- ③言葉が見つからないタイプ:実は一番多いのがこれ。声を出す気はあるのに、その瞬間に何と言えばいいのか分からない。大人でも、外国語の会議で発言できないのと同じ状態です。
大事なのは、②と③は性格の問題ではないということ。つまり「性格を直す」必要はなく、自信のつけ方と言葉の持たせ方という、練習で解決できる話なんです。①の性格タイプの子も、後で紹介する「小さい合図」から始めれば、その子なりの声の出し方が見つかります。
サッカーで求められる「声」は、気合いの雄叫びではありません。「こっち空いてる」「後ろ危ない」といった情報のやりとりです。ここを混同して「もっと元気に!」と迫ると、おとなしい子はますます苦しくなります。必要なのはテンションではなく、言葉のレパートリーです。
02おとなしい子は、実は「見えている」
もうひとつ、親に知っておいてほしいことがあります。おとなしい子は、黙っている時間によく周りを見て、よく考えていることが多いんです。
うちのチームの静かな子も、試合後に「あの場面どう見えてた?」と聞くと、「相手の8番がいつも裏に走ってた」と、誰よりも正確に答えたりします。騒がしい子が気づいていないことを、静かな子が見ている。観察力と思考力は、おとなしい子が持っていることの多い立派な武器です。
だから、目指すゴールは「よくしゃべる元気な子に変える」ことではありません。「見えているものを、必要なときだけ言葉にできる子」。これなら性格を曲げずに届きます。そしてサッカーで本当に価値があるのは、大声ではなく、見えている人のひと言です。
03具体策①言う言葉を先に決める
ここからは具体策です。一番効果があるのは、試合の前に「言う言葉」を1つだけ決めておくこと。その場で考えるから出ないのであって、決まっていれば出せます。
ステップはこの順番がおすすめです。
- ステップ1:「ナイス!」だけ:味方がいいプレーをしたら「ナイス」。判断いらず・間違いなし・誰も傷つかない、最初のひと言に最適です。
- ステップ2:「ヘイ!」(ボールがほしいとき):自分がフリーのときに呼ぶだけ。まだ理由を説明する必要はありません。
- ステップ3:情報のひと言:「後ろ来てる」「こっち空いてる」など、見えているものをそのまま言う。観察力のあるおとなしい子は、実はここが一番の得意分野になります。
ポイントは、一度に1つだけ。「今日はナイスを3回言えたら大成功」のように、回数の目標にすると子どもも達成が分かりやすくなります。できた日は、内容がどうであれ「言えたこと」をほめてください。
04具体策②声以外の「合図」から始める
どうしても声のハードルが高い子には、声の手前の「合図」から始める方法があります。
手を挙げてボールを呼ぶ。味方のいいプレーに拍手する。ハイタッチをする。これらはすべて、立派なコミュニケーションです。声より心理的なハードルがずっと低く、しかも「仲間とつながる感覚」は声と同じように育ちます。
実際、手を挙げてボールを呼べるようになった子は、そのうち手と一緒に「ヘイ」が漏れるようになります。順番は、合図→短い声→言葉。いきなり最終段階を求めないことが、遠回りに見えて一番の近道です。
「『ナイスだけ言おう』と決めたら、初めて試合で声が出た。本人が一番うれしそうだった」
「声を出せと言うのをやめて、言えた日だけほめるようにしたら、少しずつ増えていった」
「うちは手を挙げる合図から。半年かかったけど、今は『こっち!』と呼べている」
「静かだけど、試合の話をさせると誰より細かく覚えていて驚く。見る力はあるんだと思えた」
05親のNG対応と、家でできること
最後に、親の関わり方です。まずNGから。
本人はコーチに言われた時点で、十分すぎるほど気にしています。家でまで言われると、サッカー自体が「自分はダメだと確認される場所」になってしまう。家は追い打ちの場ではなく、回復の場にしてあげてください。
きょうだいやチームメイトとの比較は、自信タイプの子には特に毒です。比べるなら「先週の本人」と。「先週より1回多く呼べてたね」が正解です。
「もっと明るくならなきゃ」「積極的な性格にしないと」は、子どもに「今の自分ではダメ」と伝えるのと同じです。おとなしさは欠点ではなく、観察力・思考力とセットの気質。直すのではなく、活かし方を教えるのが大人の仕事です。
家でできることは、シンプルに2つ。ひとつは、試合や練習の「実況ごっこ」。夕食のときに「今日一番よかった味方のプレーは?」と聞いて、「ナイスって言うならどの場面?」と話す。言葉にする練習を、安全な家でやっておくんです。もうひとつは、家庭で発言の成功体験を積ませること。家族の会話で最後まで話を聞いてもらえる、意見を採用してもらえる——「言ってよかった」の積み重ねが、ピッチでのひと言を支えます。
06よくある質問
コーチに「声を出せ」と毎回言われます。親はどうフォローすべき?
家では追い打ちをかけず、『言う言葉を1つ決めておく』作戦に付き合ってあげてください。『明日はナイスだけ言ってみようか』と目標を小さくし、できたら回数をほめる。コーチの要求はチーム全体への声かけであることも多いので、親までセットで責める構図にしないことが大切です。
声が出ないと、試合に出してもらえなくなりますか?
チームの方針にもよりますが、少年年代で声だけを理由に出場機会がなくなることは多くありません。むしろ判断やポジショニングの良さで信頼を得る子もいます。心配なら、コーチに『家でどんなサポートをすればいいか』と相談する形で聞いてみると、責められずに状況が分かります。
本人は「声出してるつもり」と言います。どうすれば?
実際に声が小さくて届いていないケースはよくあります。責めずに、『届いたかどうか』をゲームにするのがおすすめです。公園で距離を取って名前を呼び合う、家の中で合図の練習をするなど、声量そのものを遊びで育てると、つもりと実際のギャップが埋まっていきます。
おとなしい性格のままで、サッカーは続けられますか?
続けられます。プロ選手にも物静かなタイプは大勢いて、大声ではなくプレーと的確なひと言でチームを動かしています。おとなしい子の観察力・思考力はサッカーで大きな武器です。目指すのは性格を変えることではなく、見えているものを必要なときに伝えられるようになることです。
試合になると緊張して、声どころではないようです。
緊張が先に立つ子は、声の前にまず緊張のケアが必要です。試合前のルーティンを作る、結果ではなく挑戦をほめるなど、緊張との付き合い方を整えると、声は後から自然についてくることが多いです。くわしくは試合で緊張する子への関わり方の記事も参考にしてください。
おとなしい子の子育ては、焦らないことがすべてです。試合で緊張しやすい子への声かけは 試合で緊張する子のサポート、出場機会が少なくて悩んでいるなら ベンチが多い子の親ができること もあわせてどうぞ。
そして、静かな子ほど、道具が自信をくれることがあります。足に合った一足は「思いきりプレーしていい」という小さなお守りに → スパイク選びのランキング
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
少年サッカーの育成年代を指導して3年目、これまで延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断力・認知・立ち位置・パススピード・切り替え、GKからのビルドアップを軸に、「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。毎月、練習設計と自己内省をレポートにまとめてPDCAを回す、分析型の指導者です。
現場でサッカー未経験の保護者の声を大切にしてきました。専門用語をゼロに噛み砕き、「親が今日からできること」に翻訳してお届けします。
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