練習の輪から少し離れて、一人でボールを転がしている。順番待ちの列に並べず、コーチの説明の途中でどこかへ行ってしまう。グラウンドの隅から見ていて、胸の奥がぎゅっとなる——。「サッカー、うちの子には無理なのかな」「チームに迷惑をかけてないかな」。発達に特性のある子の保護者から、この相談を受けることがあります。でも実際は、やり方を少し変えるだけで、驚くほど楽しめるようになる子がたくさんいます。この記事を読み終えるころには、指示の出し方・順番待ちの工夫・感覚の過敏への対応・チームやコーチへの伝え方まで、今日から試せる形で分かります。
この記事は診断や療育について書くものではありません。発達の特性についての診断・支援・専門的なプログラムは、医療機関や自治体の発達相談窓口、学校の特別支援の担当など、専門機関の領域です。ここで扱うのは、サッカーの現場(指導とチーム生活)でできる工夫だけに限定します。
そして大前提として、特性の出方は子どもによってまったく違います。「この特性ならこうすればいい」という一般化はできません。あくまで試してみる引き出しとして読んでください。
現場で効くのは、たった3つの原則です。①指示は短く ②一度に1つ ③言葉より見せる。これだけで、伝わり方がまるで変わります。順番待ちが苦手なら「待つ場所」を目に見える形にする。感覚が過敏なら、服や靴の素材を先に整える。チームへ伝えるかどうかは、「診断名」ではなく「こうすると本人が動きやすい」という形で共有するのが現実的です。コーチとの話し方は → コーチとの関係のつくり方
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。監修コーチのチームにも、集中の持続や集団行動に難しさを抱える子は毎年います。現場で強く感じているのは、「その子に効いた工夫は、たいていチーム全員に効く」ということ。たとえば、説明を3つ並べるのをやめて1つずつにしたら、その子だけでなく低学年全体のミスが目に見えて減りました。ある年、話を聞くのが苦手だと言われていた子が、コーチが実演を1回入れるようにしただけで、その日のうちに動きが変わったことがあります。伝わっていなかったのは、聞く力ではなく伝え方のほうだった。この視点で読んでもらえると、いちばん役に立つはずです。
01伝わりやすい指示の出し方|短く・1つずつ・見せる
サッカーの現場は、じつは言葉の情報量がとても多い場所です。「今から2人組でパスして、10本終わったらコーンのところに集まって、そのあとミニゲームやるから水分とっといて」。これを一度で処理するのは、大人でもけっこう大変です。
だから原則はこの3つ。
- 短く:一文を10秒以内に。長い説明は途中で切る
- 一度に1つ:やることを1個だけ渡す。終わったら次を渡す
- 見せる:言葉より、実際にやって見せる/絵や図で示す
これは家でも同じです。「着替えて、水筒持って、玄関出て」ではなく、「まず着替えて」。終わったら「次、水筒」。手順を分解して1つずつ渡すだけで、朝の準備が驚くほどスムーズになる家庭は多いです。
「走るな」「触るな」「そっち行くな」——否定形は、「じゃあ何をすればいいのか」が入っていません。頭の中で「やらないこと」から「やること」に変換する手間がかかるぶん、動きが止まります。
OKは「ここに立って」「ボールはここに置いて」と、やってほしい行動をそのまま言うこと。これはどの子にも効きますが、指示の処理が苦手な子には効果がはっきり出ます。
もうひとつ大事なのが、できたときに具体的に言葉にすること。「よくできたね」より「今、コーチの話を最後まで聞けてたね」。何が良かったのかが分かると、次にもう一度できます。
02順番待ちと集団が苦手なとき
少年サッカーの練習には、待つ時間がけっこうあります。シュート練習の列、コーチの説明、給水。この「待つ」が苦手な子は少なくありません。
効くのは、待つ時間を「見える」ようにすることです。
- 待つ場所にマーカーを置く(「このコーンのところで待つ」と場所が決まると、動きが安定する)
- 順番を数字で見せる(「あと3人」と分かると、見通しが立つ)
- 待つ時間に役割をつくる(ボール拾い、コーンの並べ直しなど、体を動かせる仕事)
- 列を短くする(10人1列より、5人2列。待ち時間そのものを減らす)
とくに最後の「列を短くする」は、コーチ側の工夫です。実際、監修コーチのチームでは待ち時間の長い練習を減らしたところ、チーム全体の集中が明らかに続くようになりました。集中が続かないのは子どもの問題ではなく、待たせすぎている設計の問題だったということです。
集団に入るのが苦手な場合は、いきなり全体に入れないのもひとつの方法です。少人数の組で先に慣れて、そこから全体へ。人と話すのが苦手な子への向き合い方は人見知りの子とサッカーにも通じます。
03感覚の過敏|音・接触・ユニフォームの肌ざわり
見落とされがちですが、現場で大きいのが感覚まわりです。本人は理由を説明できないことが多く、「わがまま」と受け取られてしまうことがあります。
音:ホイッスル、大人の大きな声、体育館の反響。特定の音が苦手な場合、その音がする瞬間だけ離れられる場所があるだけで落ち着くことがあります。
接触:体がぶつかる練習が苦手なケース。無理に慣れさせるより、接触の少ないメニューから入って、段階的に。当たりの強い1対1をいきなりやらせると、サッカーそのものが嫌いになります。
肌ざわり:これがいちばん見落とされます。ユニフォームのタグ、ソックスの縫い目、すね当てのゴワつき、靴の中の縫い目。ちくちくする、締めつけられる、という感覚が気になると、プレー中ずっとそこに注意が向いてしまいます。
対策はシンプルで、タグを切る・インナーを1枚はさむ・素材のやわらかいものを選ぶ。とくに足元は、素材で履き心地がはっきり変わります。
△ここだけ注意:やわらかい素材のぶん、幅がとても広い子・甲が高い子には合わないことがあります。上位モデルは1万円を超えますが、これは約半額。履き心地で嫌がる子は、まず「かたさ」を疑ってみると、あっさり解決することがあります。試着できる店で一度合わせてから買うのがいちばん確実です。
04チームに事前に伝えるかどうか
ここは、多くの保護者が悩むところです。結論を先に言うと、「伝えるか/伝えないか」の2択で考えないほうがいいです。
現実的なのは、診断名ではなく「行動と対応」を伝えるという形です。たとえば——
- ✕「〇〇という特性があります」(伝わり方が人によってばらつく)
- ○「長い説明が続くと分からなくなることがあるので、短く区切ってもらえると助かります」
- ○「大きな声で言われると固まってしまうので、近くで静かに言ってもらえると動けます」
- ○「待つのが苦手なので、待ち時間に何か役割をもらえると落ち着きます」
こう伝えると、コーチはすぐ動けます。名前を伝えるより、対応のほうが具体的に役に立つんです。もちろん、伝えたほうが配慮を得やすい場面もあるので、どこまで伝えるかは家庭の判断で構いません。伝えない選択も、まったく問題ありません。
チーム全体に共有すべきかどうかで悩む方がいますが、基本はコーチと、必要なら代表までで十分です。全体に説明すると、本人の意図しないラベルがついてしまうことがあります。
子ども同士は、大人が思うより早く「その子はそういう子」として受け入れます。説明より、一緒に過ごす時間のほうが効くのが現場の実感です。
05コーチに共有するときの言い方
伝えるタイミングは、入団直後か、困りごとが出たとき。練習後の立ち話で、短く伝えるのがいちばん摩擦がありません。
型としては、この3点セットが使いやすいです。
- ① 状況「説明が長くなると、途中で分からなくなることがあるようです」
- ② お願い「短く区切って言ってもらえると助かります」
- ③ こちらの姿勢「家でも同じやり方で練習しています。何かあれば言ってください」
③がとても大事です。お願いだけで終わらせず、家でもやっていることを添える。これがあるだけで、コーチ側は「一緒にやる話だ」と受け取ります。逆に、要望だけが並ぶと身構えられてしまう。
それと、うまくいったときに必ず報告すること。「先週、短く言ってもらってから家でも落ち着いてます」。この一言で、コーチはその対応を続けてくれます。人は、効果が返ってくると続けられるものです。
06本人が楽しめる参加の形をつくる
最後に、いちばん大事な話を。目標は「みんなと同じようにできること」ではありません。本人が楽しく続けられることです。
参加の形は、ひとつではありません。
- 練習の全部ではなく、得意なメニューだけ参加する
- 試合は出ないで、ベンチで一緒にいるところから始める
- 人数の少ない平日の練習だけ行く
- 疲れたら途中で抜けていいと最初に決めておく
こういう形を「特別扱い」だと感じる必要はまったくありません。続けられる形を見つけた子は、半年後には想像しなかったところまで来ます。監修コーチの現場でも、最初の3か月は輪に入れなかった子が、1年後には自分から声を出してチームを動かしていた、という例があります。無理に矯正したわけではなく、本人のペースで入れる入り口があっただけです。
集中が続かないことそのものについては子どもの集中力との向き合い方もあわせて読んでみてください。
07現場の声+家でできる支え方
「コーチに『短く言ってもらえると助かります』とだけ伝えたら、次の練習から本当に変わった。診断名は出してません」
「ソックスの縫い目が嫌だったみたいで、それを変えただけで練習中の集中が全然違った。理由が分からず叱ってた時期が申し訳ない」
「最初の半年はベンチにいるだけでした。今は普通にミニゲームに入ってます。あのとき無理に出させなくてよかった」
「うちの子に効いた『1つずつ言う』が、チーム全体でも使われるようになった。他の子にも効いたらしいです」
家でできることは、成功した場面を具体的に言葉にして残すことです。「今日は最後まで並べてたね」。この積み重ねが、本人の中の「できる自分」を育てます。
そしてもうひとつ。親が一人で背負わないこと。専門機関の相談窓口も、学校の担当も、使っていい場所です。サッカーの現場でできる工夫と、専門的な支援は別のもの。両方あっていいし、両方あるほうが子どもはラクになります。
よくある質問
発達に特性がある子でも、少年サッカーはできますか?
特性の出方は子どもによってまったく違うので一般化はできませんが、指示の出し方や参加の形を工夫することで楽しめている子はたくさんいます。目標を『みんなと同じようにできること』ではなく『本人が楽しく続けられること』に置き換えると、選べる形がぐっと増えます。診断や支援については専門機関にご相談ください。
コーチには診断名を伝えたほうがいいですか?
診断名より『こうすると本人が動きやすい』という具体的な対応を伝えるほうが、現場では役に立ちます。『長い説明だと分からなくなるので短く区切ってほしい』『待ち時間に役割があると落ち着く』など、行動とお願いをセットで。どこまで伝えるかは家庭の判断で構いませんし、伝えない選択も問題ありません。
順番待ちができず、列から離れてしまいます。
待つ時間を目に見える形にすると変わることがあります。待つ場所にマーカーを置いて位置を決める、『あと3人』と順番を数字で見せる、ボール拾いなど待ち時間に体を動かせる役割をつくる、などです。そもそも列が長すぎることも多いので、コーチに『列を短くできませんか』と相談してみるのも有効です。
ユニフォームや靴を嫌がって着てくれません。
肌ざわりが気になっている可能性があります。タグを切る、インナーを1枚はさむ、縫い目の少ないソックスにする、やわらかい素材の靴を選ぶ、といった対応で落ち着くことがあります。本人は理由をうまく説明できないことが多いので、わがままと決めつけず、素材や締めつけを1つずつ変えて試してみてください。
チームの他の保護者にも説明したほうがいいですか?
基本はコーチと、必要なら代表までで十分です。全体に説明すると本人の意図しないラベルがついてしまうことがあります。子ども同士は大人が思うより早く『その子はそういう子』として受け入れるので、説明より一緒に過ごす時間のほうが効くというのが現場の実感です。判断はご家庭の状況に合わせて構いません。
足元の履き心地が合わないだけで、練習に集中できなくなる子は本当に多いです。素材やサイズから選び直したい方は、比較ページをどうぞ → 比較ランキングで学年・足型からピッタリのシューズを選ぶ
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
少年サッカーの育成年代を指導して3年目、これまで延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断力・認知・立ち位置・パススピード・切り替え、GKからのビルドアップを軸に、「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。毎月、練習設計と自己内省をレポートにまとめてPDCAを回す、分析型の指導者です。
現場でサッカー未経験の保護者の声を大切にしてきました。専門用語をゼロに噛み砕き、「親が今日からできること」に翻訳してお届けします。
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