試合が始まると同時にスマホを構えて、わが子を追いかけて90分。腕はパンパン、画面はガタガタ、肝心のゴールシーンは日差しで白飛び——。家で見返そうとしたら、ズームしすぎてどこの誰だか分からない映像が延々と続き、子どもも3分で飽きて席を立つ。「なんのために撮ってるんだろう」と思ったこと、ありませんか。実は、少年サッカーの試合撮影には「上達につながる撮り方」の型があります。しかも必要なのは高い機材ではなく、構え方と位置取りの知識だけ。この記事では、コーチが分析にも使える「価値ある1本」の撮り方をお伝えします。
上達につながる撮影のコツは3つ。①ハーフウェーライン付近の少し高い位置から ②ズームせず「引き」で、ピッチの半分〜全体が入る画角で ③ボールではなくコート全体を撮る。ボール周りだけを追った映像には、わが子の一番大事なプレー(ボールがないときの動き)が映りません。機材はスマホ+できれば三脚で十分。見返すときは「責める会」にしないことが最重要です。
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。保護者の撮った動画をチームの振り返りに使わせてもらうことがあるのですが、正直、使える動画と使えない動画の差がはっきりあります。ズームでボールだけを追った動画は、プレーの前後が切れていて分析に使えません。逆に、引きで撮られた1本の動画から、ある子が「ボールが来る前に3回も首を振って周りを見ていた」ことが分かり、本人に見せたら目を輝かせていた——ということもありました。映像の価値は画質ではなく、「何が映っているか」で決まります。
01機材はスマホで十分な理由
まず機材の話から。結論、いま持っているスマホで十分です。最近のスマホカメラは、少年サッカーの振り返り用途には過剰なくらいの性能があります。ビデオカメラや高級カメラを買い足す必要はありません。
ただし、あると劇的に変わるものが1つだけあります。三脚(またはスマホスタンド)です。手持ちの90分は思った以上の重労働で、後半は必ず画面が揺れます。三脚に固定すれば、映像が安定するだけでなく、親自身が肉眼で試合を楽しめるようになります。撮影に追われて、目の前のわが子の一番いいプレーを生で見逃す——これが撮影親の一番切ない事故です。
- 必須:スマホ(横向きで撮る。縦向きはピッチが入りません)
- 強くおすすめ:三脚・スマホホルダー(数千円のもので十分)
- あると安心:モバイルバッテリー(動画撮影は電池を激しく消耗します)、容量の空き確認(試合前に不要な動画を消しておく)
02位置取り|どこから撮るかで8割決まる
機材より大事なのが位置取りです。おすすめは「ハーフウェーライン(コートの真ん中の線)の延長線上、少し高さのある位置」。真ん中から撮ると、両方のゴール方向がバランスよく入り、攻守どちらの場面も追えます。
高さも重要です。土手や観客席の段差など、少し見下ろせる場所があれば最優先で確保してください。目線の高さだと選手が重なって奥の動きが見えませんが、少し高いだけで選手同士の位置関係——つまり戦術的な情報が一気に見えるようになります。
わが子がシュートを決める瞬間を正面から狙えるゴール裏は、記念映像としては最高です。ただ、ピッチ全体の位置関係が分からないため、振り返り・上達用途には不向き。目的で使い分けましょう。なお、会場の観戦エリアのルールが最優先です。撮影のためにベンチ近くやライン際に立ち入るのはマナー違反になります。
03撮り方の最重要ルール「引きで撮る」
そして、この記事でこれだけ覚えて帰ってほしいのが「引きで撮る」です。つまり、ズームを使わず、ピッチの半分〜全体が入る画角のまま固定すること。
親心としては、わが子をアップで撮りたくなります。でも、ズームでボール周りだけを追った映像には、致命的な欠点があります。プレーの「前」と「後」が映らないんです。
サッカーの上達で一番大事な情報は、実はボールが来る前にあります。パスを受ける前にどこに立っていたか、周りを見ていたか、味方のためにどう動き直したか。1人の選手がボールに触るのは試合のうちわずか数分で、残りの時間の動きにこそ、その子の成長ポイントが詰まっています。ズームした瞬間、その情報はすべて画面の外に消えます。
・パスを受ける前に、いい場所へ動けていたか
・ボールを失った後、すぐ切り替えて追いかけたか
・味方がボールを持ったとき、立ち止まっていないか
・チーム全体のどこが空いていて、どこが詰まっていたか
全部、ズーム映像には映らない情報です。迷ったら引き。これが鉄則です。
04オフザボールが映る動画は宝物
「ボールを持っていないときの動き」のことを、サッカーではオフザボールと呼びます。難しい言葉に聞こえますが、要は「ボールがないところで何をしているか」。引きで撮った動画の本当の価値は、ここが映っていることです。
コーチの立場から言うと、オフザボールが映った保護者の動画は本当に貴重です。ベンチからは試合を止めて見返すことができません。「あの子、映像で見ると毎回いいポジションを取り直してるな」という発見が、そのまま次の練習メニューや声かけにつながることもあります。
そして何より、子ども本人への効果が大きい。ゴールやドリブルは本人も覚えていますが、「ボールが来る前のいい動き」は、本人も気づいていないことがほとんど。映像で「ここで動き直したから、このあとパスをもらえたんだよ」と見せてもらえた子は、記録に残らない自分のプレーに価値があると知ります。これは、点を取った映像を見せるより、ずっと深い自信になります。プロの試合を見るときも同じ視点が使えます(→ Jリーグ・代表戦を子どもと見る)。
05親子での見返し方|責めない振り返り
最後に、いちばん大事な話。せっかく撮った動画も、見返し方を間違えると逆効果になります。
やりがちなのが、失敗シーンで一時停止して「ほら、ここでパスすればよかったでしょ」と始まる反省会。これをやると、子どもにとって動画は「ダメ出しの証拠映像」になり、そのうち見ること自体を嫌がるようになります。
・失敗シーンで止めて「なんで?」と問い詰める
・「〇〇くんはできてるのに」と画面内の他の子と比べる
・親が解説者になって、延々としゃべり続ける
動画はミスの証拠集めの道具ではありません。「いい場面を一緒に見つける道具」です。
おすすめの見返し方は、次の3つだけ守ればOKです。
- ①いいプレーから見る:最初に見るのは、ゴールでも好プレーでも「ボールが来る前のいい動き」でも。まず「見るのが楽しい時間」にします。
- ②質問で進める:「このときどこ見てた?」「次はどうしたい?」と、答えを言わずに聞く。気づきは、教えられるより自分で見つけたほうが残ります。
- ③短く終わる:低学年なら5分、高学年でも10分あれば十分。全部見せようとせず、いい場面を2〜3個見て「今日も面白かったね」で終わるのがコツです。
「三脚を買ったら世界が変わった。撮影しながら、初めて肉眼で息子の試合をちゃんと見られた」
「引きで撮るようにしたら、コーチに『この動画、チームの振り返りに使わせてください』と言われた」
「ボールが来る前の動きを一緒に見たら、本人が『俺、ちゃんと動いてたんだ』と自信を持てたみたい」
「昔は失敗シーンばかり見せてた。いいプレーから見る方式にしたら、子どもから『動画見よう』と言うように」
06よくある質問
スマホの容量がすぐいっぱいになります。対策は?
試合前に不要な動画を消して空きを作っておくのが基本です。撮影後はクラウドストレージやパソコンにこまめに移しましょう。また、全試合をフルで残す必要はありません。見返しに使うのは実質2〜3場面なので、見返したあとは『残す場面だけ切り出して、あとは消す』運用にすると容量も整理もラクになります。
画質はどのくらいの設定で撮ればいいですか?
スマホの標準設定で十分です。画質を上げるより、横向きで撮る・手ブレを抑える(三脚を使う)・逆光を避けるほうが、見やすさへの効果は大きいです。太陽を背にする位置取りを意識するだけで、白飛びはかなり防げます。
他の子も映り込みます。SNSに載せてもいい?
注意が必要です。他の子が特定できる形での公開は、トラブルの元になります。チームによっては撮影・公開のルールを定めているので、まず確認を。SNSに載せる場合は、わが子だけの場面を切り出す、他の子の顔が分からない形にするなど、慎重すぎるくらいでちょうどいいです。撮影自体も会場のルールに従ってください。
子どもが動画を見たがりません。無理に見せるべき?
無理強いは逆効果です。見たがらない子の多くは、過去に『ダメ出しの時間』を経験しています。まず、いいプレーだけを30秒見せて『この動き、良かったね』で終わる回を何度か作ってください。動画=楽しい時間と分かれば、自分から見たがるようになります。それでも嫌がるなら、しばらく撮るだけにして寝かせておきましょう。
毎試合撮るべきですか?撮影で親が疲れてしまいます。
毎試合でなくて大丈夫です。三脚に固定して『撮りっぱなし』にすれば負担はほぼゼロになりますし、月に1〜2試合の映像でも、成長の振り返りには十分です。撮影が目的になって親が試合を楽しめないのは本末転倒。生で見て思いきり応援する日があっていいんです。
撮った映像の「見る目」を育てるには、プロの試合を親子で見るのも効果的です → Jリーグ・代表戦を子どもと見る楽しみ方。三脚や日よけなど観戦当日の装備は 観戦の持ち物リスト にまとめています。
映像を見返すと、足元の踏ん張りがプレーを支えていることにも気づくはず。学年・足型に合った一足選びはこちら → スパイク選びのランキング
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
少年サッカーの育成年代を指導して3年目、これまで延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断力・認知・立ち位置・パススピード・切り替え、GKからのビルドアップを軸に、「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。毎月、練習設計と自己内省をレポートにまとめてPDCAを回す、分析型の指導者です。
現場でサッカー未経験の保護者の声を大切にしてきました。専門用語をゼロに噛み砕き、「親が今日からできること」に翻訳してお届けします。
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