失点したあと、試合をよく思い出してみてください。抜かれた瞬間、その後ろには誰もいなかった——そんな場面が多くないでしょうか。少年サッカーの失点は、1対1で負けたから起きるのではありません。抜かれたあとに、2人目がいなかったから起きます。この2人目のことをカバーリングと呼びます。派手さは一切ありません。統計にも残りません。ですが、これを教えたチームと教えていないチームでは、失点数がはっきり変わります。この記事では、8人制の少年サッカーで実際に使える形まで落として書きます。
カバーリングとは、味方が抜かれることを前提に、後ろで待っておくことです。ポイントは3つ。①横に並ばない ②斜め後ろに立つ ③ボールと自陣ゴールを結んだ線の上。とくに①が最重要で、少年サッカーの守備は横一列に並んでしまうことがほとんど。横並びは、1人抜かれたら全員が抜かれます。「1人は必ず下がる」——これだけで失点は減ります。
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。監修コーチが、あるシーズンの失点34点を1つずつ映像で分解したことがあります。分類はこうなりました。「1対1で抜かれ、その後ろに誰もいなかった」失点が21点(62%)。「複数人で囲んだが全員がボールに行った」失点が7点。純粋な個の能力差やミドルシュートが6点。つまり失点の6割以上が、2人目の不在でした。翌シーズン、「1人は必ず斜め後ろに残る」という約束を1つだけ加えたところ、同じカテゴリで失点は34点から19点になりました。守備の技術指導は、ほとんど増やしていません。
01カバーリングとは|2人目の守備
カバーリングとは、ボールに直接プレッシャーをかけている味方(1人目)の後ろに控えて、抜かれたときに対応する役割のことです。日本の現場では「カバー」とだけ呼ぶことも多い。
ここで大事なのは、カバーリングが「味方が抜かれる前提」で立つという点です。
「抜かれないように頑張れ」ではなく、「抜かれてもいいように、後ろにいる」。この発想の違いが決定的です。
1人目=ボールに寄せて、自由を奪う。抜かれてもいい
2人目=抜かれた瞬間に対応する。絶対に一緒に飛び込まない
2人目が一緒にボールへ行くと、後ろに誰もいなくなります。ここが少年サッカーで最も多い崩壊パターンです。
なぜこれが効くのか。1対1は、どんなに上手い子でも必ず抜かれるからです。プロでも抜かれます。抜かれない前提の守備は、必ず破綻します。
少年サッカーでは「抜かれるな」という声が飛びがちですが、これは実現不可能な要求です。抜かれることを織り込んだ設計にしたほうが、結果として失点は減ります。1人目に「抜かれてもいいから寄せろ」と言えるチームは強い。後ろがいると分かっているから、思い切って寄せられるんです。
02横に並んだ瞬間、守備は崩壊する
少年サッカーの守備を上から見ると、子どもたちは自然と横一列に並びます。全員がボールを見て、全員が同じ距離で構える。
これが最悪の形です。理由は単純で、1人抜かれたら全員が同時に抜かれるから。
横一列=全員が同じ深さにいる状態。
ボールを持った相手が1人を抜いた瞬間、そのラインの後ろは無人になります。
2人いても3人いても、横に並んでいる限り「1人ぶん」の守備にしかなりません。
冒頭の「複数人で囲んだが全員がボールに行った失点7点」は、まさにこれです。人数はいた。全員が真面目に守備をしていた。ただし全員が同じ場所にいた。
これを直す言葉は、驚くほど単純です。
「1人は下がる」誰かがボールに行ったら、近くの誰か1人は寄らずに下がる。子どもにはこれで伝わります。「カバーリング」という単語は要りません。
03斜め後ろ|どこに立てばいいのか
では、2人目はどこに立つのか。真後ろではなく、斜め後ろです。
① 1人目の斜め後ろ(真横でも真後ろでもない)
② 距離は3〜5メートル(近すぎると一緒に抜かれる/遠すぎると間に合わない)
③ ボールと自陣ゴールを結んだ線の上(最短で来られる場所を塞ぐ)
なぜ真後ろではなく斜めなのか。真後ろだと、抜かれた方向によっては対応が間に合わないからです。斜めに立つと、1人目の内側(ゴール方向)を先に塞げます。相手が一番行きたいのはゴールのほうなので、そちらを優先して消す。
そして③が、8人制ではとくに効きます。8人制はピッチが狭いぶん、ゴールまでの距離が近い。外に流れるドリブルは怖くありませんが、内側へ切れ込まれると一発で危険な場所に入られます。
距離をメートルで言っても子どもには測れません。効くのは「手を伸ばしても届かないけど、走れば2歩で届く距離」。あるいは、実際にその位置に立たせて「ここ」と地面を指すのが一番早いです。感覚は言葉より場所で覚えます。
048人制で誰がカバーするのか
8人制(GK1+フィールド7)では、11人制のように専任のカバー役を置く余裕がありません。だから役割ではなく、状況で決めます。
原則=ボールに一番近い子が1人目。その次に近い子が2人目。
ポジション名で決めません。「ディフェンダーがカバー」ではなく、そのとき2番目に近い子。前線の子でも、自陣なら2人目になります。
これを役割で固定してしまうと、「自分の担当じゃない」と誰も下がらない状況が生まれます。ポジションを教える段階の子ほど、この副作用が出やすい。
だから伝え方は、「一番近い人が行く。2番目の人は下がる」。この2文だけで、8人制の守備は成立します。ポジションそのものの話は少年サッカーのポジションと役割へ。
05「行け!」と言い続けると、2人目が消える
ここは、大人の側の話です。
守備の場面でベンチや保護者から飛ぶ声で、圧倒的に多いのが「行け!」「取れ!」「囲め!」。全部、ボールに向かわせる言葉です。
この声を浴び続けた子は、どうなるか。全員がボールに行きます。言われたとおりにやっているだけです。そして後ろに誰もいなくなり、抜かれた瞬間に失点する。
代わりに使える言葉は、これです。
「行け!」→ 「1人行って、1人下がる」
「囲め!」→ 「後ろ埋めて」
「抜かれるな!」→ 「後ろにいるから、思い切って行っていいよ」
3つめが特に効きます。後ろがいると分かっている子は、1人目として思い切って寄せられるようになる。守備が消極的な子の原因が、実は「後ろに誰もいないことを本人が知っているから」だったというのは、よくある話です。
06家と公園でできるカバーリング練習3つ
カバーリングは人数が要ると思われがちですが、3人いればできます。親子2人でも形は覚えられます。
01斜め後ろに立つだけ
親が1人目役でボールに寄る動きをし、子どもは毎回その斜め後ろ3〜5メートルに立ち直します。ボールは使わなくても構いません。立ち位置だけの練習です。
02抜かれてからの2秒
親がドリブルで子ども(1人目)を抜きます。抜かれた瞬間から2秒以内に、子どもは体を反転させて相手とゴールの間に戻ります。奪わなくて構いません。戻れたら成功。
033人で1人行って1人下がる
子ども2人+親1人(攻撃役)でやります。親がボールを持ったら、子どもは「どっちが行くか」を声で決め、行かないほうは必ず下がる。奪えたら成功。
「「1人行って1人下がる」だけで、失点が明らかに減ったとコーチにも言われました」
「抜かれた子を責めていたけど、後ろが誰もいなかったのが原因だと分かりました」
「「後ろにいるから思い切って行っていいよ」で、守備が急に積極的になりました」
「上から見たら本当に横一列でした。言われるまで気づきませんでした」
カバーリングは止まって、反転して、また出るの繰り返しです。この切り返しは足元が滑ると成立しません。土のグラウンドでスタッドが噛むかどうかが、そのまま戻れるかどうかに出ます。
△ここだけ注意:靴でカバーリングができるようになるわけではありません。ただ、抜かれてから戻る動きは、止まる・反転する・加速するの連続です。すり減ったソールだと最初の一歩で滑ります。判断はスパイクの寿命と買い替えサインを参考にしてください。
07親が試合で見るポイント
試合中、ボールから目を離して、後ろを見てください。これだけで、失点の原因がほとんど見えます。
味方がボールに寄せた瞬間、その後ろに味方がいるか、いないか。
いれば、抜かれても失点にはなりにくい。
いなければ、抜かれた瞬間に決まりです。
そして、もし失点したときに抜かれた子だけが責められていたら——それは違います。原因は後ろに誰もいなかったことであって、抜かれたこと自体ではありません。
家でこう言えるだけで、子どもの理解は変わります。「抜かれたのは仕方ない。後ろに誰もいなかったのが問題だったね」。責めていないのに、原因を伝えられる言い方です。
08よくある質問
カバーリングとは何ですか?
ボールに直接プレッシャーをかけている味方(1人目)の後ろに控えて、抜かれたときに対応する役割のことです。重要なのは「味方が抜かれる前提」で立つという点で、「抜かれないように頑張れ」ではなく「抜かれてもいいように後ろにいる」という発想です。1対1はどんなに上手い子でも必ず抜かれるので、抜かれない前提の守備は必ず破綻します。
なぜ横一列に並んではいけないのですか?
全員が同じ深さにいる状態なので、1人抜かれた瞬間にそのラインの後ろが無人になるからです。2人いても3人いても、横に並んでいる限り「1人ぶん」の守備にしかなりません。実際に失点を分解すると、複数人で囲んだのに全員がボールへ行ってしまった失点が一定数ありました。「1人は下がる」と決めるだけで変わります。
2人目はどこに立てばいいですか?
1人目の斜め後ろ、3〜5メートル、ボールと自陣ゴールを結んだ線の上です。真後ろではなく斜めなのは、真後ろだと抜かれた方向によって対応が間に合わないためで、斜めなら1人目の内側(ゴール方向)を先に塞げます。距離は「手を伸ばしても届かないけど、走れば2歩で届く距離」と伝えると子どもにも通じます。
8人制では誰がカバーするのですか?
ポジションではなく状況で決めます。ボールに一番近い子が1人目、その次に近い子が2人目です。役割で固定すると「自分の担当じゃない」と誰も下がらない状況が生まれます。伝え方は「一番近い人が行く。2番目の人は下がる」の2文だけで、8人制の守備は成立します。
「行け!」と言うのはダメですか?
それだけを連呼すると、全員がボールに向かって2人目が消えます。子どもは言われたとおりにやっているだけです。「1人行って、1人下がる」「後ろ埋めて」に置き換えてください。とくに効くのが「後ろにいるから、思い切って行っていいよ」で、後ろがいると分かっている子は1人目として思い切って寄せられるようになります。
失点したとき、抜かれた子を注意すべきですか?
抜かれたこと自体は問題ではありません。1対1は必ず抜かれるものだからです。原因は後ろに誰もいなかったことのほうにあります。「抜かれたのは仕方ない。後ろに誰もいなかったのが問題だったね」と言えば、責めずに原因を伝えられます。抜かれた子だけを責めると、次から寄せられない子になります。
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育成年代の指導3年目、延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断・認知・立ち位置を軸に「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。
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