「今日、キーパー誰がやる?」——コーチのこの一言で、グラウンドがシーンとなる。全員が下を向く。うちの子も目をそらしている。帰りの車で聞いてみると、「キーパーはやだ。怖いし、点を取られたら自分のせいになるもん」。責める気にはなれません。だって、その通りの経験をどこかでしているんですから。この記事では、GKを怖がる・やりたがらない子の気持ちの正体と、「守らせる」のではなく「GKって楽しいかも」と思わせる入り口メニューを紹介します。キャッチングの技術指導は目的ではありません。入り口の話です。
GKを嫌がる理由は①ボールが怖い ②失点=自分のせいになるのが怖い ③地味でつまらなそう、の3つ。処方せんは、シュートを受けさせることではなく、「怖くないボール」からのキャッチ遊び+止めたら大げさに実況+GKが勝てるルールのゲームの3点セットです。「上手にやらせる」より先に「気持ちよくさせる」。順番を間違えなければ、GKは人気ポジションになります。
→ グラウンドで踏ん張れる一足はこちら
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。うちのチームは在籍17名で、以前はGK希望者がゼロでした。ジャンケンで負けた子がしぶしぶやる状態。そこで練習の最初の10分を「全員GKゲーム」(ゆるいボールを止めたらコーチが実況でほめる遊び)に変え、練習の最後に「今日のセーブ王」を発表するようにしたんです。3週間後、「今日キーパーやりたい人」に4人の手が挙がりました。子どもが嫌っていたのはGKそのものではなく、「怖くて、報われないGK」だったんです。
01子どもがGKを嫌がる3つの理由
まず、敵の正体をはっきりさせましょう。子どもがGKを避ける理由は、だいたいこの3つに集約されます。
- ボールが怖い:速いボールが自分に向かって飛んでくる。顔に当たったら痛い。体が勝手によけてしまう。
- 失点が自分のせいになる:フィールドのミスは流れの中に消えるのに、GKのミスだけは全員に見える。「あの1点は自分のせい」という記憶は、大人が思うよりずっと重い。
- 地味に見える:味方が攻めている間はやることがなく、ゴールを決める快感もない。ヒーローになれるイメージが湧かない。
逆に言えば、この3つを1つずつ外していけば、GKは「痛くなくて、責められなくて、ヒーローになれる」ポジションに変わります。実際、プロの世界ではGKはチームでいちばん頼られる存在。子どもの中のイメージが実態とズレているだけなんです。
02親とコーチがやりがちなNG
① 失点のあとの「今のは止めなきゃ」——本人がいちばん分かっています。この一言で「二度とやらない」が確定します。
② 「誰もやらないなら、おまえやれ」——罰としてのGK。ポジションのイメージが「罰ゲーム」で固定されます。
失点の後にかける言葉は1つだけ。「次、頼んだ」。信頼だけを渡してください。
もうひとつ、見落としがちなNGが「いきなり本物のシュートを受けさせる」こと。怖さが残っている段階で速いボールを浴びせると、ボールへの恐怖が上書きされて逆効果です。入り口は、拍子抜けするくらいやさしくていい。ここからのメニューは、その「やさしい入り口」を3段階で作ります。
03風船キャッチ
風船またはビーチボールを使って、親がふわっと投げたものを両手でキャッチ。慣れたら「落ちる前に2回手をたたいてからキャッチ」「ジャンプしてキャッチ」と遊びを足していく。ゴールも守備も一切なし。
04ナイスキー製造機
やわらかいボールか4号球を、親がゆるーく転がしてシュート。子どもが体で止めたら、親は実況アナウンサーになりきって「ナイスセーブ!とんでもないキーパーだ!」と大げさに叫ぶ。10本中8〜9本は止められる強さで転がすのがルール。
05GKが勝てる5本勝負
ゴール(カバン2個で幅を狭めに作る)を使い、親がシュート5本、子がGK。3本止めたらGKの勝ち。ゴール幅・シュートの強さは「GKが勝ったり負けたりする」バランスに調整する。勝敗がつくので、子どもは急に本気になる。
06GKの「かっこよさ」を見せる
メニューと同じくらい効くのが、かっこいいGKを見せることです。プロの試合のスーパーセーブ集を親子で見て、「この人、チームで一番頼られてるんだよ」と一言添える。GKが週間ベストセーブでヒーロー扱いされている映像は、子どもの中の「地味」のイメージを静かに塗り替えます。
そしてチームや親子ゲームでは、セーブしたら得点と同じテンションで喜ぶこと。ゴールには「ナイッシュー!」があるのに、セーブには何もない——この非対称が、GKを割に合わないポジションにしています。「ナイスキー!」の声が飛ぶチームでは、GKは自然に人気が出ます。
気持ちの入り口が開いて、本人が「もっと止められるようになりたい」と言い始めたら、そこからが技術の出番です。構え方やキャッチングの基礎練習は GK練習の基本メニュー に、GK特有のルール(手を使える範囲など)は キーパーのルール解説 にまとめています。
07よくある質問
チームでGKをやらされそうで、本人が憂うつそうです。
まず家で「怖くない成功体験」を貯金してあげてください。風船キャッチ→ゆるいボールのキャッチ遊び→止めたら大げさにほめる、の順で、「止めるのは気持ちいい」という記憶を作ってから送り出すと、同じGK当番でも受け取り方が変わります。あわせて「失点は全員の責任で、GKだけのせいじゃない」と繰り返し伝えてあげてください。
ボール自体を怖がって、よけてしまいます。
速いボールを受けさせるのはまだ早い段階です。風船やビーチボール、やわらかいボールから始めて「正面で受けても痛くない」体験を積み重ねてください。恐怖が残ったまま本物のシュートを受けると逆効果になります。ボール恐怖への段階的な慣らし方は、ボールを怖がる子向けの記事も参考になります。
失点のあと、ひどく落ち込みます。なんと声をかければ?
原因の解説やダメ出しは禁物です。本人が一番分かっています。おすすめは「次、頼んだ」の一言だけ。信頼を渡す言葉です。あわせて、止めたプレーを試合後に1つ挙げて「あのセーブがなかったらもっと取られてた」と、防いだ側の貢献を言葉にしてあげると、失点の記憶と釣り合いが取れます。
何歳ごろからGK練習を始めるべきですか?
ジュニア年代のうちは「GK専門」に固定する必要はありません。低〜中学年では全員が順番にGKを経験するのがおすすめで、フィールドの子も「GKの気持ち」が分かって視野が広がります。専門的な技術練習は、本人が興味を持ってからで十分間に合います。まずはこの記事のような遊びの入り口から。
GK用のグローブは買ったほうがいいですか?
入り口の段階では必須ではありません。素手のほうがボールの感覚をつかみやすい面もあります。ただ、寒い時期や人工芝での擦り傷対策、そして「自分の道具がある」というモチベーションの面では効果的です。本人がGKを楽しみ始めたタイミングで、ごほうびとして一緒に選ぶのがおすすめです。
今夜の一手は、100円ショップで風船を1袋買っておくこと。それだけで、明日の夜には最初のドリルが始められます。「守らせる」前に「気持ちよくさせる」——順番さえ守れば、GKはやりたがるポジションに変わります。
技術の段階に進んだら GK練習の基本 へ。そして、GKの横っ飛びや素早い一歩は、足元がすべると怖さが倍になります。グラウンドで踏ん張れる一足を探すなら → 学年・足型から選ぶ比較ランキング をどうぞ。
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
少年サッカーの育成年代を指導して3年目、これまで延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断力・認知・立ち位置・パススピード・切り替え、GKからのビルドアップを軸に、「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。毎月、練習設計と自己内省をレポートにまとめてPDCAを回す、分析型の指導者です。
現場でサッカー未経験の保護者の声を大切にしてきました。専門用語をゼロに噛み砕き、「親が今日からできること」に翻訳してお届けします。
当サイトの用品・ルール・練習の記事は、公開前に監修コーチが内容を確認しています。事実に関わる記述は一次情報・公式情報にあたって整理しています。


