試合中、うちの子がボールを持った。ドリブルで前に進む——でも、ずっと下を向いたまま。右に味方がフリーで手を挙げているのに、まったく見えていない。そのまま相手に囲まれてボールを取られる。ベンチから「顔を上げろ!」。子どもは一瞬だけ顔を上げて、またすぐ下を向く——。少年サッカーのグラウンドで、毎週どこかで起きている光景です。ここで知っておいてほしいのは、下を向くのは、性格でも意識の低さでもないということ。原因はもっと単純で、技術の問題です。この記事を読み終えるころには、「顔を上げろ」と言わずに顔が上がるようになる段階練習が、家でできる形で手に入ります。
顔が上がらない原因は、足元が不安だから。ボールが自分の思ったところに置けない子は、見なければ運べません。だから「顔を上げろ」と言っても直りません。正解は、ゆっくり・小さく触るドリブルから作り直すこと。→ 顔を上げて周りを見る力の育て方
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。監修コーチのチームで、下を向く癖の強かった3年生の子に、1か月間まったく「顔を上げろ」と言わずに指導したことがあります。やったのは足の裏とインサイドで、歩くスピードで小さく触るドリブルだけ。3週間目に、本人が何も言われていないのに顔を上げて周りを見はじめました。理由は本人が説明してくれました。「見なくても、足の近くにあるって分かるようになった」。これが全部です。顔は、上げるものではなく、上がるものなんです。
01ボールばかり見る子が試合で困る理由
なぜ、下を向いたままだと困るのか。理由をはっきりさせておきます。
① 味方が見えない。フリーの味方がどれだけ叫んでも、見えていなければパスは出せません。「なんで出さないの」と言われますが、本人には存在していないのと同じです。
② 相手が見えない。前から来るディフェンダーが見えないので、ぶつかる直前まで気づけません。少年サッカーで多い「囲まれて取られる」は、ほぼこれが原因です。
③ スペースが見えない。空いている場所が分からないので、人が密集しているほうへ突っ込みます。8人制のピッチは狭く、密集に入ったボールはまず出てきません。
④ 判断が遅れる。顔を上げて情報を取るのは、ボールを受ける前にやる作業です。受けてから見ていては、もう相手が来ています。
下を向いたまま3人抜くような子は、低学年ではよくいます。ただ、学年が上がると相手が速くなり、この形はほぼ通用しなくなります。低学年で通用しているうちに直すのがいちばん傷が浅い。
OK:うまくいっている今のうちに、ゆっくり触るドリブルを積む。試合で結果が出ているときこそ、土台をやり直せるチャンスです。
02下を向く原因は「足元が不安だから」
ここがこの記事の核心です。顔が上がらないのは、意識の問題ではなく技術の問題。
考えてみてください。スマホの画面を見ながら歩ける人は、足元を見なくても地面がどうなっているか分かるからです。逆に、暗い山道では誰でも下を向きます。先が読めないものからは、目を離せない。これは大人も子どもも同じです。
ドリブルも同じ構造です。ボールを蹴り出す強さが毎回バラバラな子は、次にボールがどこにあるか予測できません。だから見るしかない。逆に、一定の強さで小さく触れる子は、見なくても足の近くにあると分かる。だから顔が上がるんです。
- ボールが体から離れる → 追いかけるために見る
- タッチの強さが毎回違う → 次の位置が読めないから見る
- 苦手な足で触っている → 不安だから見る
つまり、顔を上げさせたければボールを体の近くに置き続けられる技術を先に作るしかありません。順番が逆だと、いつまでも直りません。
03「顔を上げろ」と言うだけでは直らない話
現場でいちばんよく聞く声かけが「顔を上げろ」です。悪気はまったくないのですが、これが効かない理由は2つあります。
① 一時的にしか上がらない。言われた瞬間は上がります。でもボールが体から離れた瞬間、また下を向く。原因である「足元の不安」が何も解決していないからです。
② 顔を上げるとミスが増える。無理に上げさせると、ボールが足から離れて取られます。すると子どもは「顔を上げると失敗する」と学習して、余計に下を向くようになります。これがいちばん怖い副作用です。
「顔を上げろ!」→ 「ゆっくりでいいよ、たくさんさわろう」
「前見ろ!」→ 「今、右に誰がおった?」(プレー後に聞く)
「もっと周り見て」→ 「次はどこに出したい?」
試合中に技術を直そうとしないのが鉄則。試合中は「今、右に誰がいた?」と後から聞く形にすると、次から自分で見るようになります。
04段階練習①|ゆっくり・小さく触る
ここから実際の練習です。順番が命なので、飛ばさないでください。第1段階は、顔のことは一切言いません。
01歩くスピードの細かいタッチ
歩くくらいゆっくり進みながら、足の内側で1歩ごとにボールを押していきます。10mの間に何回さわれたかを数える。速く進むことは一切求めません。
02足の裏ストップ&ゴー
ゆっくりドリブルしながら、親が手をたたいたら足の裏でボールをピタッと止めます。止まったらまた進む。ボールを自分の支配下に置く感覚を作る練習です。
この段階のゴールは「ボールが常に足のすぐそばにある」状態です。ここができていないのに次へ進むと、必ず元に戻ります。基本のコーンメニューはコーンドリブルの基本メニューにまとめているので、あわせて回してください。
ここで足元の道具も一度確認を。サイズが大きすぎる靴や、底がすり減って滑る靴だと、どれだけ練習してもボールが安定しません。特に高学年で細身の足の子は、大きめの靴の中で足が動いて、タッチのたびに微妙にズレます。軽くて足にぴたりと沿うモデルに変えるだけで、ボールが足から離れなくなる子は珍しくありません。
△ここだけ注意:フィットが良いぶん、足の幅が広い子・甲が高い子にはきつく感じることがあります。トップモデルは1万円をゆうに超えますが、これはジュニア向けで抑えられた価格帯。まず今の足幅を測ってから選んでください。
05段階練習②|視線を上げる・合図を見る
第1段階でボールが体の近くに収まってきたら、いよいよ視線です。ただしここでも「顔を上げろ」とは言いません。かわりに、上を見ないと分からない課題を与えます。これが決定的なコツです。
03色コール・ドリブル
ゆっくりドリブルしている子に、親が「赤!」「青!」など色を言い、子どもはその色のもの(コーン・カバン・看板など、あらかじめ決めた目印)へ向かって進みます。方向を変えるには、周りを見るしかありません。
04親の位置を追いかける
親が10m四方の中をゆっくり歩き回り、子どもはドリブルしながら親の前2mをキープし続けます。親が方向を変えたらついていく。親を見続けないと成立しない練習です。
視線の課題を足すと、ボールタッチは必ず一時的に崩れます。ここで無理に続けると、「顔を上げる=ボールを失う」という悪い結びつきが体に残ります。
OK:タッチが崩れたら、その場で第1段階に戻す。行ったり来たりして構いません。この上下移動を繰り返すのが、いちばん速い道です。
06親が指を出して数を答えさせる練習
家でいちばん手軽で、いちばん効くのがこれ。親は立っているだけで成立します。
05指の数当てドリブル
子どもは5〜10m先からゆっくりドリブルで親に向かってきます。途中で親が指を何本か立てて、子どもはその本数を声に出して答える。答えられたら1点、ボールが体から離れたら0点。
06指の数だけタッチを変える
指の本数を答えるだけでなく、その数だけ足の裏でボールを触ってから進む、というルールを足します。見る・数える・体を動かすを同時にやる、少し高度な形です。
この練習の良いところは、親が一切サッカーの知識を必要としないこと。指を出して、正解かどうか言うだけです。それでいて、「ボールを見ずに前を見る」という試合そのものの動きを、10分で何十回も反復できます。監修コーチのチームでも、家でこれをやっていた子から順に、試合で顔が上がりはじめました。
20本中の正解数をメモしておくと、伸びが目に見えます。最初は20本中5本しか答えられなかった子が、2週間で15本になる——このタイプの上達は数字に出やすいので、子どものやる気にも直結します。×はつけず、正解数だけ書くのがコツです。
07現場の声+やってはいけない声かけ
最後に、監修コーチのチームで実際に聞こえてくる保護者の声を。
「何百回『顔を上げろ』と言っても直らなかったのに、指の数を当てる練習を2週間やったら試合で周りを見はじめました」
「速く運ぶのをやめて、ゆっくり細かく触らせたら、そのうち勝手に顔が上がった。順番だったんですね」
「試合中に叫ぶのをやめて、帰りの車で『右に誰おった?』と聞くようにしたら、本人が意識するようになった」
「顔を上げさせようとしてミスが増え、逆に自信をなくさせていたと気づきました」
やってはいけない声かけは、はっきりしています。試合中に何度も「顔を上げろ」と叫ぶこと。子どもは直せない指摘を繰り返されると、プレー自体が怖くなります。かける言葉は、プレーが終わった後に「今、右に誰がおった?」の一言で十分。答えられなくても責めず、「次は見てみようか」で終わらせてください。直すのは家の練習で、試合中は見守る。この役割分担が、いちばん早く効きます。
よくある質問
「顔を上げろ」と言っても直らないのはなぜですか?
原因が意識ではなく技術だからです。タッチの強さが毎回違う子は、次にボールがどこへ行くか予測できないので、見ないと運べません。言われた瞬間だけ上がってもすぐ戻ります。まずボールを体の近くに置き続けられるようにするのが先です。
顔を上げる練習は何歳から始められますか?
低学年から始められます。ただし順番が大事で、まずは歩くスピードで細かくボールを触る練習から。ボールが足のすぐそばにある状態が作れてから、色を答える・指の数を答えるといった視線の課題を足していきます。順番を飛ばすと元に戻ります。
親が指を出す練習は、具体的にどうやりますか?
子どもが5〜10m先からゆっくりドリブルで向かってくる間に、親が指を何本か立てて2秒で下ろします。子どもは本数を声に出して答える。20本やって正解数を記録すると伸びが見えます。指を出すタイミングは毎回変えてください。
顔を上げさせようとすると、ボールを取られるようになりました。
視線の課題を足すとタッチは一時的に崩れます。そこで続けると『顔を上げるとミスする』と体が覚えてしまうので、崩れた時点でゆっくり細かく触る練習に戻してください。上げる・戻すを行き来するのが結果的にいちばん速い道です。
試合中に声をかけてもいいですか?
技術の指摘は避けてください。試合中に何度も叫ばれると、プレーそのものが怖くなります。かけるなら、プレーが終わった後に『今、右に誰がいた?』と質問する形に。答えられなくても責めず、次から自分で見るきっかけにするのが効果的です。
ボールが足から離れない感覚は、足に合ったシューズがあってこそ作れます。大きすぎる靴やすり減った底のままでは、どれだけ練習しても安定しません。今の学年と足の形に合う一足を確認しておきましょう → 比較ランキングで学年・足型からピッタリのシューズを選ぶ
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
少年サッカーの育成年代を指導して3年目、これまで延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断力・認知・立ち位置・パススピード・切り替え、GKからのビルドアップを軸に、「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。毎月、練習設計と自己内省をレポートにまとめてPDCAを回す、分析型の指導者です。
現場でサッカー未経験の保護者の声を大切にしてきました。専門用語をゼロに噛み砕き、「親が今日からできること」に翻訳してお届けします。
当サイトの用品・ルール・練習の記事は、公開前に監修コーチが内容を確認しています。事実に関わる記述は一次情報・公式情報にあたって整理しています。

