試合の帰り道、後部座席でうつむいたまま「今日、誰もパスくれなかった」とつぶやく我が子。ハンドルを握りながら、なんて返せばいいのか分からなくて、とりあえず「そっか」とだけ言った——そんな経験、ありませんか。サッカー未経験の親にとって、これは一番答えづらい相談のひとつです。慰めればいいのか、味方を責めていいのか、それとも我が子に何か足りないのか。この記事を読み終えるころには、「もらえない」と言う子に、家で今日からかけられる具体的な言葉と、親がやってはいけないことがはっきり分かります。
まず「くれなかったんだ、悔しかったね」と気持ちをまるごと受け止める。そのうえで、味方や我が子を責めずに「もらう動き」=顔を出す・声で呼ぶを家で遊びながら教える。パスは「待つ」ものではなく「取りにいく」もの。ここが伝わると、驚くほど早く景色が変わります。
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この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。「パスがもらえない」という悩みは、技術の問題に見えて、実は半分は気持ちと人間関係の問題です。先日も、練習試合のあとに一人だけベンチの端で泣いていた低学年の子がいました。理由を聞くと「みんなくれない」。でもその子、試合中ずっとボールに背を向けて、味方が困っていても立っているだけだったんです。責める気にはなれませんでした。だって、誰も「もらう動き」を教えてあげていなかったから。順番に見ていきます。
01まず「悔しかったね」だけでいい
子どもが「パスくれない」と言ってきたとき、親がやりがちなのはすぐに解決しようとすることです。気持ちは分かります。でも、いきなりアドバイスから入ると、子どもは「自分の気持ちを分かってもらえなかった」と感じて、心を閉じてしまいます。
「もっと動かないからだよ」「呼べばいいじゃん」——正しいことでも、悔しがっている真っ最中に言われると、子どもにはダメ出しにしか聞こえません。「パパは味方の肩を持つの?」と受け取る子もいます。まず技術論は封印。
正解はシンプルです。「そっか、くれなかったんだ。悔しかったね」。これだけ。気持ちに名前をつけて返してあげる。子どもは「分かってもらえた」と感じて、はじめて次の話を聞く耳を持ちます。アドバイスは、その日じゃなくていい。落ち着いた別の日に、遊びながら伝えるほうがずっと入っていきます。
現場でも同じです。試合直後にコーチが技術の指摘をしても、子どもの頭には残りません。先に感情、あとで技術。この順番を、親も守ってあげてください。
02「くれない」の半分は「もらう動きがない」
大人はつい「パス=蹴る側の問題」だと思いがちです。でもサッカーでは、パスは受け手が引き出すもの。味方が「あの子に出そう」と思える動きをしていなければ、どんなに味方が優しくてもボールは行きません。
具体的に、パスがもらえない子には共通のクセがあります。
- ボールに背を向けて立っている:味方から顔が見えないので、出したくても出せない。
- 相手(マーク)の真後ろに隠れている:味方から見ると「敵の陰」にいて、パスコースがない。
- 声を出さない:味方は10人以上を同時に見ています。黙って立っている子は、単純に「見えていない」。
- 止まって待っている:動かない子より、少し動いて空いた場所に顔を出した子に、ボールは行きます。
つまり「もらえない」の多くは、味方の意地悪ではなく技術以前の“もらう動き”がまだ身についていないだけ。ここが分かると、親の声かけがガラッと変わります。「呼びなさい」ではなく「どこにいたら味方から見えるかな?」と一緒に考えてあげられる。
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03家でできる『顔を出す・呼ぶ』遊び
「もらう動き」は、グラウンドでなくても、リビングや公園で遊びながら育てられます。特別な道具はいりません。ボール1つと、親の体があれば十分です。
① かくれんぼパス:親が「鬼(ディフェンス)」になり、子は親の陰に入らないように動いて、顔が見える位置に来たら「ちょうだい!」と言う。言えたらパス。
② 名前で呼ぶルール:黙って手を出してもパスしない。「パパ!」と声を出したときだけ転がす。声=もらう合図を体で覚える。
③ 2秒で動く:ボールを持った親が「1、2」と数える間に、子は今いる場所から一歩動く。止まらないクセをつける。
この遊びのミソは、「上手にトラップできたか」を採点しないこと。見るのは「顔を出せたか」「声が出せたか」だけ。技術ではなく、動きと声をほめる。「今の“ちょうだい”よかった!」と拾ってあげると、子どもは試合でも自然に声が出るようになります。
かくれんぼパスで親がガチで隠し続けると、子どもは成功体験ゼロで嫌になります。7〜8割は成功させるさじ加減で。「あ、見つかった!」とわざとやられてあげるくらいがちょうどいい。楽しさが続けば、動きは勝手に身についていきます。
04味方や監督を責めてはいけない理由
一番やってはいけないのが、親が「あのチームはパス回さないね」「◯◯くんが独り占めするからだ」と口にすることです。気持ちは分かります。我が子がボールに触れないと、親のほうが悔しい。でも、これをやると必ずこじれます。
理由は3つ。ひとつ、子どもは親の言葉をそのまま信じる。「くれないのは味方が悪い」とインプットされると、自分が動く努力をやめてしまいます。ふたつ、味方への不満は人間関係の悪化に直結する。「パスくれない」がいつのまにか「あの子きらい」に変わっていく子を、現場で何度も見てきました。みっつ、低学年〜U10の子はまだ全体が見えていないだけで、意地悪でパスを出さないわけではないことがほとんどです。
サッカーの専門用語(HG=硬い土用スパイク、FG=天然芝用、といったスパイクの種類のこと)は後からで大丈夫。もっと大事なのは、相手の子も味方の子も、まだ小学生だという視点です。大人のサッカーの基準で「なんで出さないんだ」と見ないこと。9歳の子は、目の前のボールで精一杯なんです。
親の役割は、味方をジャッジすることではなく、我が子が「もらいにいける子」になるのを手伝うこと。矢印を、外(味方)ではなく内(自分の動き)に向けてあげる。それが結局、一番の近道です。チームの人間関係が気になる人は、こちらも参考にしてください → サッカーでチームの友達と仲良くなるには
05泣いていた子が変わった話
冒頭で触れた、ベンチの端で「みんなくれない」と泣いていた低学年の子の話です。
その子には、技術の練習を一切足しませんでした。代わりに毎回、練習の最初の5分だけ「顔を出す・呼ぶ」をやりました。かくれんぼパスと同じで、味方から見える場所に動いて「ここ!」と声を出す。最初は蚊の鳴くような声でしたが、成功するたびに大げさにほめました。
変化は3週間ほどで出ました。ある試合で、その子が相手の陰からスッと空いた場所に動いて、大きな声で「ちょうだい!」と手を上げた。味方がパスを出した。トラップは正直まだ下手で、ボールはこぼれました。でも、その日その子は、前の試合の何倍もボールに触った。帰り際、「今日いっぱいもらえた」と笑っていたのが忘れられません。
数字にすると、以前は1試合でボールに触るのが数回だった子が、この頃にはその5〜6倍触るようになっていました。技術は何も変えていない。変えたのは「もらいにいく」という考え方ひとつです。「パスは、待つものじゃなくて取りにいくもの」。この一言が腑に落ちた子は、驚くほど強くなります。
「『くれないくれない』って毎回泣いていたのが、声を出す遊びを始めたら『今日ちょうだいって言えた!』に変わった。技術じゃなかったんだと目からウロコでした。」
「つい『あの子が回さないからでしょ』と言ってしまっていた。味方を責めるのをやめて、動き方を一緒に考えるようにしたら、子ども自身が明るくなった。」
「サッカー未経験で何を教えていいか分からなかったけど、『顔を出す・呼ぶ』ならリビングで一緒にできた。トラップの上手下手を採点しないのがコツだと知れてよかった。」
「『悔しかったね』だけ先に言うようにしたら、そのあとの話を素直に聞くようになった。順番って大事なんですね。」
出かける前に一言。「今日は“ちょうだい”って声、3回出してみよう。もらえなくてもいいから、呼べたら100点」。結果(もらえたか)ではなく行動(呼べたか)をゴールにする。子どもはプレッシャーなく挑戦でき、親も試合後に必ずほめるポイントが見つかります。
よくある質問
「パスくれない」と言われたとき、まず何と言えばいいですか?
アドバイスの前に、まず『そっか、くれなかったんだ。悔しかったね』と気持ちをまるごと受け止めてください。悔しがっている最中に『もっと動けばいい』と正論を言うと、子どもにはダメ出しに聞こえて心を閉じてしまいます。技術や動き方の話は、その日ではなく、落ち着いた別の日に遊びながら伝えるほうがずっと入っていきます。先に感情、あとで技術。この順番を守ってあげてください。
本当に味方が意地悪でパスをくれない場合もありますか?
低学年やU10では、ほとんどありません。この年代の子は目の前のボールで精一杯で、全体が見えていないだけです。『あの子はまだ味方が見えていないんだね』と捉えてあげてください。親が『あの子が独り占めするから』と口にすると、子どもはそれを信じて自分が動く努力をやめ、味方への不満が『あの子きらい』に育ってしまいます。矢印は味方ではなく、我が子の“もらう動き”に向けるのが結局いちばんの近道です。
「もらう動き」は家でどう教えればいいですか?
リビングや公園で遊びながら十分育てられます。おすすめは、親が鬼役になり子どもが顔の見える位置に動いて『ちょうだい!』と言えたらパスする“かくれんぼパス”、黙って手を出してもダメで声を出したときだけ転がす“名前で呼ぶルール”の2つ。トラップの上手下手は採点せず、『顔を出せたか』『声が出せたか』だけをほめてください。7〜8割は成功させるさじ加減にすると、楽しく続いて自然に身につきます。
うちの子は声を出すのが恥ずかしいみたいです。どうすれば?
いきなり試合で大声を、は難しいので、家の遊びで小さな成功を積むところから始めてください。最初は蚊の鳴くような声でも、呼べてパスが来た成功体験を重ねると、声は自然に大きくなります。試合前には『もらえなくていいから“ちょうだい”を3回言えたら100点』と、結果ではなく“呼べたこと”をゴールに設定するのが効果的。プレッシャーが消えて、挑戦しやすくなります。
スパイクなど道具を変えれば、もらえるようになりますか?
『もらえない』の原因の多くは道具ではなく、顔を出す・声で呼ぶといった“もらう動き”です。まずはそこを家で育ててあげてください。ただし、足に合わないスパイクで動きづらそう・止まりづらそうにしている場合は、動き全体が鈍って一歩目が遅れることはあります。学年と足型に合った1足かどうかは、比較ランキングで一度チェックしておくと安心です。
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「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
少年サッカーの育成年代を指導して3年目、これまで延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断力・認知・立ち位置・パススピード・切り替え、GKからのビルドアップを軸に、「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。毎月、練習設計と自己内省をレポートにまとめてPDCAを回す、分析型の指導者です。
現場でサッカー未経験の保護者の声を大切にしてきました。専門用語をゼロに噛み砕き、「親が今日からできること」に翻訳してお届けします。
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