週末の試合。うちの子がボールを持って、味方が空いているのが親からもハッキリ見える。よし、そこにパス——出した。ところが、ボールが味方に届く前に、相手の足が伸びてきてカット。そのままカウンターで失点。ベンチから「もっと速く!」の声。子どもはうつむいて走り出す——。少年サッカーでいちばん多いミスは、パスの選択ミスではなくパスの遅さです。方向は合っているのに、届く前に間に合われてしまう。この記事を読み終えるころには、速いパスを蹴る3つの要素と、強く蹴ると浮いてしまう問題の直し方が、家でそのまま練習できる形で手に入ります。
パスが速くならない原因は、力の強さではなく①軸足の位置 ②当てる面 ③振り抜きの3つです。特に多いのが軸足がボールから遠いこと。ここを直すだけで、同じ力でもパススピードは目に見えて変わります。→ インサイドキックの基本フォーム
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。監修コーチのチームで、ある試合のカット(パスを相手に取られた場面)を数えたことがあります。前半だけで11本。そのうち、パスの方向そのものが間違っていたのは3本だけで、残りの8本は「方向は合っていたのに遅かった」ものでした。8人制のピッチは狭く、相手も自分もすぐ寄ってきます。その中で、ゆっくり転がるパスは、相手にとっては「どうぞ取ってください」の合図なんです。逆に言えば、パススピードが上がるだけで、その子のプレーは一段変わります。
01少年サッカーの現実|弱いパスは必ずカットされる
まず、親に知っておいてほしい前提があります。8人制のピッチは、大人が思うより狭いということ。プレーする人数に対してスペースが限られていて、味方も相手も5〜10mの距離にひしめいています。
この距離感の中で、ふわっと転がるパスがどうなるか。相手のディフェンダーは、パスが出た瞬間に走り出します。ボールが7m進む間に、相手は5m走れる。結果、届く前に足が届く。これが「方向は合っていたのに取られた」の正体です。
もう一つ大事なのが、味方が受けた後の時間です。速いパスが届けば、味方は相手が寄る前に次の判断ができます。遅いパスだと、受けた瞬間にはもう相手が目の前。パススピードは、味方に時間をプレゼントする行為だと考えてください。
親切心から出る言葉ですが、少年サッカーでは逆効果になることが多いです。やさしく=遅く、になり、相手にカットされる。カットされた子は「パスを出したら怒られた」と感じて、次からパスを出さなくなります。
OK:「味方がすぐ蹴れる速さで」と伝える。強さの基準を「やさしさ」ではなく「味方が次に何かできるか」に置き換えるだけで、子どもの蹴り方は変わります。
02速いパスの3要素|軸足・当てる面・振り抜き
速いパスは、力自慢の子だけのものではありません。小柄な子でも、この3つがそろえば十分に速いパスを蹴れます。
① 軸足の位置——これが最重要です。軸足(蹴らないほうの足)を、ボールの真横・こぶし1つ分の距離に置く。ここが遠いと、体重が乗らず、足だけで押し出す弱いパスになります。逆に近すぎると窮屈になって振れません。速くならない子の8割は、ここが遠いと思っていいです。
② 当てる面——足の内側(インサイド)の、くるぶしの少し下の平らな面で当てます。つま先寄りに当たると力が逃げ、かかと寄りだと押し出すだけになる。当てる面が毎回変わる子は、パスの速さも毎回変わります。
③ 振り抜き——当てて終わりではなく、蹴った足を狙った方向へ振り抜く。少年サッカーで「当てるだけ」になっている子はとても多いです。ボールに当たった後も足を前に運ぶ。これだけでスピードは1段上がります。
「強く蹴れ」→ 「軸足をボールの横まで持っていこう」
「面で当てろ」→ 「くるぶしの下で当ててごらん」
「振り抜け」→ 「蹴った足を、相手のほうまで持っていく」
子どもは「強く」と言われると、力むだけで速くなりません。体の使い方の言葉に翻訳すると、その場で変わります。
03強く蹴ると浮いてしまう問題の直し方
「速く蹴ろうとすると、浮いて味方の頭を越える」。これは本当によくある壁です。原因はほぼ2つに絞れます。
原因A:軸足がボールより後ろにある。軸足が後ろにあると、体が後ろに反り、足がボールの下をすくいます。結果、ボールは浮く。直し方は、軸足のつま先をボールの真横〜わずかに前に置くこと。これだけでかなり収まります。
原因B:ボールの下側を蹴っている。速く蹴ろうと足を大きく振ると、当てる位置が下にずれます。ボールの中心(真ん中の高さ)を狙うと、まっすぐ低く飛びます。
浮かないように、と加減して蹴らせると、遅くて浮かないパスになるだけです。これでは元の問題が残ります。
OK:強さはそのままで、軸足を1歩ボール寄りに置き直す。順番として、まず強さを保ったまま位置を直すのが正解です。強さを落として直したフォームは、試合で強く蹴った瞬間に崩れます。
もう一つ、意外な要因が足元の滑りです。軸足がグッと踏ん張れないと、体重が乗る前に足が流れて、蹴り足だけで振ることになります。すると浮く・弱くなるの両方が起きる。グラウンドに合ったソール(靴底)のシューズを履いているか、すり減りすぎていないかは、一度確認する価値があります。
△ここだけ注意:やわらかい人工皮革は足なじみが良い反面、雑に扱うと型崩れが早いです。使ったら泥を落として陰干しするだけで持ちが変わります。上位モデルは1万円を超えますが、これは約半額。パスの安定を求める中高学年には、この価格帯が現実的な選択です。
04「味方が止めやすい強さ」の見つけ方
ここで大事な注意点。速ければ速いほど良い、ではありません。低学年の味方に強烈なパスを出しても、止められずに弾かれて相手ボールになります。目指すのは「相手には間に合われず、味方は止められる」ギリギリの強さです。
現場では、こう伝えています。「味方が一歩も動かずに、足の内側で止められる速さ」。強すぎて味方が足を引いてしまうなら出しすぎ、相手が寄ってこられるなら弱すぎ。この幅を体で覚えるには、実際に受けてもらってフィードバックをもらうのがいちばん早いです。
- 受けた味方が「止めやすかった?」と聞ける関係を作る(家では親が答える)
- 距離で強さを変える:5mと15mでは必要な強さがまるで違う
- 味方の学年・技術で変える:低学年の味方には少し弱めに
親が家で相手役をやるときは、この「今のは強すぎ」「今のちょうどいい」を言ってあげるだけで十分な指導になります。技術の説明はいりません。受け手の実感こそ、いちばん正確な物差しです。
05家でできるパススピードの練習3つ
パススピードは、家の壁と5mのスペースがあれば伸ばせます。おすすめは次の3つ。
01軸足セット→壁当て
壁から4〜5m。蹴る前に必ず一度止まって、軸足をボールの真横・こぶし1つ分に置いてから蹴ります。返ってきたボールを止めて、また軸足を置き直してから蹴る。フォームを固める練習です。
02低く速く・ライン当て
壁の低い位置(地面から30cm以内)にテープや目印を貼り、そこに当てるつもりで強く蹴ります。浮いたら失敗、当たったら1点。10本中何点かを記録します。
032タッチ・スピードパス(親子)
親子で6〜8m離れ、止める→蹴るの2タッチで、30秒間に何本パスを往復できるかを数えます。速く蹴らないと本数が伸びない仕組みなので、自然とスピードが上がります。
06速さと精度を両立させる練習の順番
ここを間違えている家庭が、本当に多いです。順番は「精度→速さ」ではなく「速さ→精度」。理由は単純で、ゆっくり正確に蹴るフォームと、速く蹴るフォームは別物だからです。
ゆっくり丁寧に当てる練習ばかりやった子は、試合で速さが必要になった瞬間、フォームが崩れます。逆に、最初から試合で使う強さで蹴って、そこから狙いを合わせていくほうが、そのまま試合で使えます。
現場での組み立てはこうです。
- 第1段階:とにかく強く、まっすぐ低く(狙いは気にしない)
- 第2段階:同じ強さのまま、大きな的に当てる
- 第3段階:同じ強さのまま、的を小さくする
- 第4段階:動きながら・止めてすぐ蹴る
全段階を通じて「強さは落とさない」のがルールです。的が小さくなると子どもは自然に弱くしたがるので、そこだけ親が「強さはそのままで」と声をかけてあげてください。狙いを合わせる練習の詳しい進め方はキックの精度を上げる練習にまとめています。
なお、成長期に強いキックを繰り返すと、股関節やひざに負担がかかることがあります。本数は1日100本程度までを目安に、痛みが続くようなら整形外科で相談を(負担のかかり方には個人差があります)。
07現場の声|パスが速くなった子の共通点
「軸足の位置を直しただけで、体格は変わってないのにパスが別人になりました」
「『強く蹴れ』と言い続けても浮くだけだったのが、ボールの真ん中を蹴ると教えたら一発で直った」
「受け手の私が『今のちょうどいい』と言うだけで、強さの感覚がつかめたみたいです」
「30秒で何本パスできるか数える練習にしたら、速く蹴るのが楽しくなったようです」
共通しているのは、力を出させたのではなく、体の使い方を1つだけ直したという点。パススピードは筋力の問題ではありません。ここは、体の小さい子の親にこそ知っておいてほしいところです。
よくある質問
パスが遅い原因は筋力不足ですか?
ほとんどの場合、筋力ではありません。原因の多くは軸足の位置がボールから遠いことです。軸足をボールの真横・こぶし1つ分の距離に置くだけで、同じ力でもボールに体重が乗って速くなります。体の小さい子でも十分速いパスは蹴れます。
強く蹴るとボールが浮いてしまいます。どう直せばいいですか?
原因は2つ。軸足がボールより後ろにあること、そしてボールの下側に当たっていることです。軸足のつま先をボールの真横からわずかに前に置き、ボールの中心の高さを狙って蹴ってください。弱く蹴って浮きを直すのは逆効果で、試合で強く蹴った瞬間にまた崩れます。
パスは速ければ速いほどいいのですか?
違います。目指すのは『相手には間に合われず、味方は止められる』強さです。目安は、味方が一歩も動かず足の内側で止められる速さ。距離が短ければ弱め、長ければ強め、低学年の味方には少し弱めと、相手に合わせて変えられる子がいちばん上手い子です。
速さと精度は、どちらを先に練習すべきですか?
速さが先です。ゆっくり正確に蹴るフォームと、速く蹴るフォームは別物なので、先にゆっくり固めると試合の速さで崩れます。まず試合で使う強さでまっすぐ低く蹴れるようにし、その強さを保ったまま的を小さくしていく順番が身につきやすいです。
家でパススピードの練習はできますか?
壁と4〜5mのスペースがあればできます。蹴る前に軸足の位置をセットしてから壁当てをする、壁の低い位置に目印を貼って浮かせずに当てる、親子で30秒間に何本パスを往復できるか数える。この3つで十分に伸ばせます。夜や集合住宅では音に注意してください。
軸足の踏ん張りと当てる面の安定は、足に合ったシューズがあってこそ。サイズが小さくなっていたり、ソールがすり減っていると、フォームを直しても再現できません。今の学年と足の形に合う一足を確認しておきましょう → 比較ランキングで学年・足型からピッタリのシューズを選ぶ
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
少年サッカーの育成年代を指導して3年目、これまで延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断力・認知・立ち位置・パススピード・切り替え、GKからのビルドアップを軸に、「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。毎月、練習設計と自己内省をレポートにまとめてPDCAを回す、分析型の指導者です。
現場でサッカー未経験の保護者の声を大切にしてきました。専門用語をゼロに噛み砕き、「親が今日からできること」に翻訳してお届けします。
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