金曜の夜、子どもが妙に静かでした。「明日の練習、行きたくない」。理由を聞いても口が重い。しばらくして、ぽつりと「〇〇くんに、下手くそって言われた」。——胸のあたりがすっと冷たくなる、あの感覚。チーム内で子ども同士のトラブルが起きたとき、親はいきなり「当事者」になります。どこまで聞くのか、コーチに言うのか、相手の親に連絡していいのか。判断を間違えると、子どもが余計に居場所をなくすこともある。この記事を読み終えるころには、まず家でどう聞くか・誰にどう伝えるか・様子を見ていい場合と動くべき場合の線引きが、順番で分かるようになります。
やることは3つだけです。①家では「聞く」に徹する(誘導しない)②相手の保護者に直接連絡しない③コーチには事実と感情を分けて伝える。この順番を守れば、こじれません。逆に、いちばん多い失敗が「相手の親に直接LINEしてしまう」こと。チーム内の人間関係については → チームの友達関係とのつきあい方
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。監修コーチのチームでも、1シーズンに数件は子ども同士のぶつかり合いが起きます。ただ、現場で見ていて思うのは、そのうちの8割は「悪意」ではなく「言葉が足りない」から起きているということ。試合で負けた直後に「おまえのせいだ」と言ってしまった子は、たいてい3日後にはケロッとして一緒に遊んでいます。問題は、残りの2割——繰り返される、逃げ場がない、大人が見ていない場所で続く、というケース。この2割を見落とさないために、親が知っておくべき手順があります。誰かを悪者にしなくても、事態はちゃんと動かせます。
01よくある3つの形|強い言葉・仲間外れ・ミスを責める
チーム内のトラブルは、だいたい次の3つの形で現れます。まず強い言葉。「へたくそ」「おまえ来るなよ」といった、聞けば一発でアウトと分かるやつです。次に仲間外れ。パスが回ってこない、ペアを組むときに残される、水分休憩のときだけ輪に入れない。3つめがミスを責める。これがいちばん厄介で、外から見ると「サッカーの指摘」に見えてしまいます。
現場で見ていて、親御さんが気づきにくいのは2つめと3つめです。グラウンドの外では普通に話しているのに、ピッチの中だけパスが来ない。これは低学年より中高学年でよく起きます。子ども本人も「いじめられてる」とは思っていなくて、ただ「サッカーがつまらない」と感じている。だから家では「なんか行きたくない」としか言わないんです。
ぶつかり合いそのものは成長の一部です。ただ、片方だけが一方的に言われ続けている状態は別物。見分け方はシンプルで、やり取りが双方向かどうかです。言い返せている・翌日には遊んでいるなら、たいていは自然に収まる。一方通行で、しかも繰り返しているなら、大人が入る場面です。「よくあること」と「続いていること」は分けて考えてください。
02まず家で聞く順番|誘導しないための聞き方
親がやる最初の仕事は、解決ではなく聞くことです。しかもこれ、順番があります。
- ① まず体と気持ちを聞く(「今日どうだった?」ではなく「今日、楽しかったところあった?」)
- ② 出てきた話をそのまま繰り返す(「パスが来なかったんだ」)
- ③ いつ・どこで・何回くらいを、責めない口調で確認する
- ④ 誰がは最後でいい(先に名前を聞くと子どもが黙る)
- ⑤ 「話してくれてありがとう」で必ず終える
いちばんやりがちな失敗が、先回りして名前を出すことです。「〇〇くんでしょ?」と聞いた瞬間、子どもは「うん」と答えてしまう。実際は違う子だったり、もっと複雑だったりするのに、その一言で話が固定されてしまいます。監修コーチが実際に立ち会ったケースでも、親御さんが確信していた相手と、子どもが本当に困っていた相手が別人だったことが2回ありました。
どちらも、子どもの口を閉じさせる言葉です。「やり返しなさい」は、うまくできなかったときに「自分がダメだった」に変わる。「気にするな」は、話しても意味がなかったという学習になる。
OKは「それは嫌だったね。話してくれて助かった」。評価も指示もせず、まず受け取る。ここができていれば、2回目・3回目の相談が来ます。情報が入り続けることが、いちばんの安全網です。
03相手の保護者に直接連絡しないほうがいい理由
気持ちとしては、いちばんやりたくなるやつです。でも、これだけは避けてください。理由は3つあります。
1つめ、情報が片側しかないこと。子どもの話は嘘ではないけれど、その子から見えた景色です。相手の子には別の景色がある。2つめ、親同士がこじれると、子どもの逃げ場がなくなること。子ども同士は数日で戻れても、大人が対立すると次の週末から気まずさが固定されます。3つめ、チーム全体の問題になったとき、収める人がいなくなること。あいだに立てる立場の人——コーチや代表——を通しておくと、話が個人対個人にならずに済みます。
① コーチや代表に同席してもらう(1対1にしない)
② 謝罪を求める場にしない(目的は「これからどうするか」だけ)
③ 子ども本人を同席させない(大人の話し合いに立たせない)
この3点を守るだけで、「話し合ったのに悪化した」がほぼ防げます。
04コーチに伝えるとき|事実と感情を分ける
コーチに伝えるときのコツは、たったひとつ。事実と感情を分けて、両方言うことです。混ぜると、伝えたいことがぼやけます。
事実は、いつ・どこで・何が起きたか。「先週の土曜の練習で、ミニゲーム中に『来るな』と言われたと本人が言っています」。日時と場面が入るだけで、コーチ側は該当の時間帯の記憶をたぐれます。感情は、家で何が起きているか。「本人が練習に行きたくないと言い出していて、親としても心配です」。この2つをセットで渡すのが、いちばん動きやすい伝え方です。
気持ちは分かります。でも冒頭でこれを出すと、コーチは説明モードに入ってしまい、事実確認より先に防御が始まります。
OKは「うちの子の見え方なので事実は分かりませんが、こう言っています。練習中の様子を少し気にかけてもらえませんか」。断定しない・お願いの形にする。これだけで、たいていのコーチは翌週の練習でちゃんと見てくれます。伝え方の基本はコーチとの関係のつくり方にまとめています。
伝える手段は、できれば練習後に立ち話で口頭。文章は残るぶん、強く伝わりすぎることがあります。どうしても文章なら、短く・事実だけ・お願いの形で。
05様子を見ていい場合/すぐ動くべき場合の線引き
いちばん知りたいのはここだと思います。線引きの基準を、はっきり書きます。
様子を見ていいのは、こんなとき。単発である。試合の直後など感情が高ぶった場面で起きた。言い返せている。翌日には普通に話している。本人が「もう平気」と言っていて、実際に表情が戻っている。この場合は、親は知っているけど動かないのが正解です。ただし2週間は観察してください。行きたがらない日の回数を、カレンダーに小さく印をつけておくだけで十分です。
すぐ動くべきなのは、次のどれかに当てはまるとき。
- 同じことが3回以上繰り返されている
- 複数の子から同じ扱いを受けている
- 体に触れる行為がある(叩く・押す・持ち物を隠す/壊す)
- 大人が見ていない更衣・移動・車の中など、死角で起きている
- 子どもの睡眠・食欲・登校に影響が出ている
とくに下の2つが出ているなら、迷わず動いてください。サッカー以外の生活に出ている時点で、それは「サッカーの話」ではありません。学校生活にもまたがっているなら、担任の先生や学校の相談窓口、自治体の子ども相談窓口も選択肢になります。深刻ないじめは、チーム内だけで抱えるものではありません。専門の窓口に相談することは、大げさでも失礼でもない、ふつうの手順です。
06子どもが「言わないで」と言ったとき
これが、いちばん親を悩ませる場面です。話してくれたのに、最後に「絶対言わないでね」。
まず、その気持ちを否定しないでください。子どもが恐れているのは、告げ口したと思われることと、大ごとになること。この2つです。だから、まず「あなたに黙って勝手には動かない」と約束する。そのうえで、こう聞きます。「言わないでほしいのは、名前? それとも、あったこと全部?」。ここが分かれ目で、多くの子は「自分が言った、ということを伏せてほしい」だけなんです。
その場合、コーチには名前を出さずに伝えられます。「最近ミニゲームでパスが偏っている場面があるようで、少し見てもらえませんか」。誰が言ったかを出さずに、コーチの目を増やすことはできる。これで解決するケースは、現場感覚では体感で半分以上あります。
① 「名前は出さない。でも、あなたを守るために先生の目は増やす」
② 「動く前に、必ずあなたに先に言う」
③ 「体に何かされたときだけは、約束より安全が先。それは先に言っておくね」
③を最初に伝えておくのが大事です。あとから約束を破る形になると、次から話してくれなくなります。
07現場の声+家でできる支え方
監修コーチのチームで、実際に聞こえてきた保護者の声です。同じ場所を通った人の言葉なので、いちばん参考になるはずです。
「相手の親に直接LINEしたら、そこから半年ぎくしゃくした。コーチを通せばよかったと今も思う」
「名前を出さずに『パスが偏ってるみたい』とだけ伝えたら、次の練習でコーチがチーム分けを変えてくれた」
「本人が『言わないで』と言うので黙ってたけど、寝つきが悪くなったのを見て動いた。もっと早くてよかった」
「うちは1回きりの言い合いだった。何もしないで2週間見てたら、勝手に元通りになってました」
家でできることは、実はシンプルです。サッカー以外の時間を、意識してちゃんと確保すること。トラブルの最中は、家の中まで「チームの話」で埋まりがちになります。何も聞かずに一緒にごはんを食べる日、公園でボールだけ蹴る日をつくると、子どもは「ここは安全だ」と体で分かります。そのうえで、子どもが自分で乗り越えた瞬間を見つけて言葉にする。「今日、自分から入っていったの見えたよ」。この一言が、次の一歩をつくります。
そしてもうひとつ。親が抱え込みすぎないことも大事です。自分の疲れが限界に来ていると感じたら、親の燃え尽きを防ぐも読んでみてください。
よくある質問
子どもが「練習に行きたくない」と言い出しました。休ませていいですか?
1回や2回なら休ませて大丈夫です。無理に行かせて『家でも味方がいない』と感じさせるほうがリスクがあります。ただし休ませたあと、理由を責めずに聞く時間は必ず取ってください。行きたがらない日が3回以上続く、または睡眠や食欲に影響が出ているなら、様子見ではなくコーチに相談する段階です。
相手の保護者と顔を合わせるのが気まずいです。どうすれば?
無理に普段どおりを演じなくて大丈夫です。挨拶だけきちんとして、それ以上の会話は求めない。これで十分です。子ども同士が先に元通りになることも多く、そのときに大人が対立を残していると子どもが動きにくくなります。あいだに立つのはコーチや代表の役目なので、直接の話し合いは避けてください。
コーチに相談したのに、何も変わりません。
一度で伝わらないことはあります。次は日時と場面をより具体的にして、もう一度だけ伝えてください。それでも動きがなければ、チームの代表や別のコーチなど、相談先を1人増やします。それでも変わらず、子どもの生活に影響が出ているなら、チームを変える選択も現実的です。子どもの居場所は1つではありません。
うちの子が「言った側」かもしれません。どう聞けばいいですか?
問い詰めずに、事実だけを確かめてください。『そういう話を聞いたんだけど、何があった?』と、責める前に状況を聞く。責めると子どもは嘘をつきます。事実が確認できたら、謝ることそのものより『相手がどう感じたか』を一緒に考える時間を取るほうが、次につながります。
いじめかどうか、親が判断していいのでしょうか?
判断しようとしなくて大丈夫です。見るのは『繰り返しているか』『一方通行か』『生活に出ているか』の3つだけ。どれかに当てはまるなら、名前をつけずに動いてください。学校生活にもまたがる場合は、担任の先生や自治体の子ども相談窓口など、専門の窓口に相談するのが普通の手順です。チーム内だけで抱える必要はありません。
トラブルの渦中でも、子どもがピッチに戻る瞬間は必ず来ます。そのときに気持ちよく走れるよう、足元だけは整えておいてあげてください。サイズの合わない靴は、それだけで練習を嫌いにさせます → 比較ランキングで学年・足型からピッタリのシューズを選ぶ
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
少年サッカーの育成年代を指導して3年目、これまで延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断力・認知・立ち位置・パススピード・切り替え、GKからのビルドアップを軸に、「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。毎月、練習設計と自己内省をレポートにまとめてPDCAを回す、分析型の指導者です。
現場でサッカー未経験の保護者の声を大切にしてきました。専門用語をゼロに噛み砕き、「親が今日からできること」に翻訳してお届けします。
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