「顔を上げろ」「もっと周りを見て」「早く判断して」——正しいことを言っているのに、子どもの動きが変わらない。この経験は、コーチにも親にもあります。ところが同じ子に、言葉をひとつも足さずに同じ動きをさせる方法があります。ルールを1つ変えるだけです。指示で人を動かすのではなく、動かざるを得ない場をつくる。この考え方を知ると、家の練習が別物になります。
「顔を上げろ」と言っても上がりません。ですが「合図を見てから蹴る」というルールにすると、上げないと成立しないので全員が上げます。
やることは制約(ルール・広さ・道具・人数)を1つだけ変えること。実測では、声かけを20回した日の実行が7回中2回、ルールを1つ変えた日は7回中6回でした。言葉の量ではなく、場の設計で決まっています。
そして副作用が小さい。怒らなくてよくなります。
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。監修コーチが、「受ける前に後ろを見る」という一点だけを2週にわたって比べたことがあります。
1週目は言葉で。「見て」「後ろ確認」と、練習中に合計20回以上言いました。結果、7人中2人しか実行していませんでした。
2週目は言葉をやめて、ルールを1つだけ足しました。「パスが来る前に、コーチが出している指の本数を言えたらプレー続行。言えなかったら、そこでやり直し」。結果は7人中6人。声かけはゼロです。
01なぜ「顔を上げろ」では上がらないのか
理由は3つあります。
とくに③が本質です。顔を上げなくてもボールが止まって、次のパスも出せてしまう練習では、上げる理由がありません。人は必要がないことを続けません。子どもがサボっているのではなく、そのメニューが「見なくてもいい形」になっているのです。
ここに気づくと、指導の力点が変わります。「どう言えば伝わるか」を考えるかわりに、「見ないと成立しない形にするにはどうするか」を考える。これが制約の発想です。
02制約で教える、という考え方
考え方そのものは単純です。
① やらせたい動きを1つに絞る
「うまくなってほしい」ではなく「受ける前に後ろを見る」まで具体化する
② その動きをしないと成立しないルールを作る
やらないと失敗する、やれば成功する。子ども自身が、やったほうが得だと気づく形にする
大事なのは②で、「やらないと怒られる」ではなく「やらないと成立しない」にすることです。前者は大人が監視し続けないと機能しません。後者は大人が黙っていても機能します。
「教えない」と聞くと放置に思えますが、逆です。設計する手間は増えます。ルールを考え、やらせてみて、うまくいかなければ調整する。声をかけるほうがずっと簡単です。簡単なほうが効かない、というだけの話です。
03実測|声かけ20回で2人、ルール1つで6人
冒頭の比較を、条件から書きます。
狙い:パスを受ける前に、一度後ろを見る
1週目:練習中に「見て」「後ろ確認」と20回以上、声で伝える
2週目:声かけゼロ。かわりに「パスが来る前に、コーチの指の本数を言えたら続行」というルールを追加
メニュー・人数・時間は同じ。変えたのは伝え方だけです。
もう1つ、書いておきたいことがあります。2週目のほうが、子どもの表情が良かったことです。1週目は指摘され続けるので、だんだん下を向いていきました。2週目はゲームとして成立しているので、当てられなかった子も笑っていました。
制約で教えることの利点は、実行率が上がることだけではありません。大人が指摘役から降りられることです。うまくいかないとき、責める相手が子どもではなくルールになります。「じゃあ、この決まりを少し易しくしようか」で済む。
04変えられる制約は4種類しかない
無限に工夫する必要はありません。いじれるつまみは4つです。
コートを狭くする/細長くする/ゴールを2つ置く。
立ち位置と、判断の速さに効きます
2対1、3対2のように、わざと数を偏らせる。
数が多い側は「余っている人を使う」、少ない側は「遅らせる」を覚えます
2タッチまで/逆足だけ/全員が触ってからシュート/逆足のゴールは2点。
やってほしい行動の点数を上げるのがいちばん効きます
小さいボール/柔らかいボール/目印を置く。
技術の難易度そのものを上下させます
1回に動かすのは1つだけです。2つ以上変えると、うまくいったときも、いかなかったときも、原因が分かりません。
05そのまま使える制約集(狙い別)
家で親子2人でもできるものに絞って挙げます。
01受ける前に後ろを見る|指の本数ルール
親がパスを出す直前に、片手で指を何本か立てます。子どもはボールを受けながら本数を答えます。答えられたら成功、答えられなければやり直し。
02止める位置を良くする|ゲート通過ルール
子どもの前方2メートルほどに、目印2つで幅1メートルのゲートを作ります。トラップした1本目のボールが、そのゲートの中に収まったら成功。
03逆足を使う|得点を変えるルール
親子で1対1をして、利き足のゴールは1点、逆足のゴールは3点にします。禁止はしません。点数だけ変えます。
04早く判断する|広さを1歩ずつ縮める
1対1をする四角い区画を、1本ごとに1歩ずつ小さくします。同じ相手・同じルールで、広さだけを変えます。
「「見て」と言うのをやめて指の本数にしたら、その日のうちに首を振るようになりました」
「逆足のゴールを3点にしただけで、自分から左足を使い始めて驚きました」
「怒らなくてよくなったのが、いちばん助かっています」
「うまくいかないときにルールを直せばいいので、親子で言い合いにならなくなりました」
なお、ここまで読んで気づかれたと思いますが、この記事では道具をすすめていません。制約を変えるのに、新しく買うものはほぼ要らないからです。区画は靴やペットボトルで作れますし、ゲートも同じです。足りないのは道具ではなくルールだ、というのがこの記事の主張なので、その主張と矛盾することは書きません。
06制約を作るときの3つの失敗
うまくいかないときは、たいてい次のどれかです。
③は特に大事です。制約は「禁止」ではなく「条件」で作ります。
×「利き足で蹴るな」→ 動きが止まる
○「逆足のゴールは3点」→ 自分から選ぶ
×「1人でドリブルするな」→ 挑戦しなくなる
○「全員が触ってからのゴールは2点」→ 味方を使う理由ができる
成功率の目安は、他の練習と同じで10回やって6回できるくらいです。全部成功するなら制約が緩すぎ、2〜3回なら厳しすぎます。
07指示を完全にやめる話ではありません
最後に、行きすぎないための線を引いておきます。制約がすべてを解決するわけではありません。
使い分けの目安は、「本人がやる気になれば今すぐできることか」です。
今すぐできるのに、やっていないだけ(=顔を上げる、逆足を使う)なら制約が効きます。
そもそもやり方を知らない(=インステップの当て方)なら説明と見本が要ります。
言葉の量そのものの問題は、別記事で扱っています。ここでの結論は1つです。正しいことを言い続けても動きが変わらないなら、言い方を工夫する前に、場の作り方を疑ってみる価値があります。
08よくある質問
制約で教える、とはどういうことですか?
やらせたい動きを1つに絞り、その動きをしないと成立しないルールを作ることです。「顔を上げろ」と言うかわりに「パスが来る前に親の指の本数を言えたら続行」というルールにすると、見ないと成立しないので全員が見ます。ポイントは「やらないと怒られる」ではなく「やらないと成立しない」形にすることで、こうすると大人が黙っていても機能します。
なぜ「顔を上げろ」と言っても上がらないのですか?
3つ理由があります。①プレー中はボールを見ているので聞く余裕がない、②「周りを見て」の周りがどこか指定されていない、③見なくても成立してしまう。とくに③が本質で、顔を上げなくてもトラップできて次のパスも出せる練習では、上げる理由がありません。サボっているのではなく、そのメニューが「見なくてもいい形」になっています。
変えられる制約には、どんな種類がありますか?
4種類です。①空間(広さ・形)は立ち位置と判断の速さに、②人数(数の偏り)は数的優位の使い方に、③ルール(タッチ数・得点)はやってほしい行動そのものに、④道具(ボールの大きさ・柔らかさ)は技術の難易度に効きます。1回に動かすのは1つだけにしてください。2つ以上変えると原因が分からなくなります。
「逆足を使え」と言うのと、何が違うのですか?
禁止で縛ると子どもは嫌になり、動きも止まります。制約は禁止ではなく条件で作ります。「利き足で蹴るな」ではなく「逆足のゴールは3点」にすると、禁止していないのに子どもが自分から逆足を選びはじめます。同じく「1人でドリブルするな」ではなく「全員が触ってからのゴールは2点」にすると、味方を使う理由が生まれます。
うまくいかないときは、どうすればいいですか?
たいてい3つのどれかです。①難しすぎる(一度も成功しないと嫌になる)、②狙いが2つ以上ある(見ると逆足を同時に課すと両方身につかない)、③禁止の形で作っている。成功率の目安は10回やって6回で、全部成功なら緩すぎ、2〜3回なら厳しすぎます。責める相手が子どもではなくルールになるのが、この方法の利点です。
指示や説明は、しなくていいのですか?
使い分けます。目安は「本人がやる気になれば今すぐできることか」です。今すぐできるのにやっていないだけ(顔を上げる、逆足を使う)なら制約が効きます。やり方をそもそも知らない場合、安全にかかわる場面、感覚のコツをたとえで渡す場面、本人が理由を知りたがっているときは、言葉で伝えるほうが速いです。
言葉の「量」そのものの問題は、こちらで扱っています → 指示が多いほど、決められない子になる 感覚をたとえで渡す方法は技術は「たとえ」でしか届かない理由、練習の並べ方は同じ練習を続けるか、混ぜるかへ。
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
育成年代の指導3年目、延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断・認知・立ち位置を軸に「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。
用品・ルール・練習の記事は、公開前に監修コーチが内容を確認し、事実に関わる記述は一次情報にあたって整理しています。監修者について →

