「昨日はあんなにできていたのに、今日はまた元に戻っている」——家で練習を見ている保護者が、いちばん力を抜かれる瞬間です。子どものやる気を疑いたくなります。ですが、原因が練習の並べ方にあることがあります。同じことを続けて練習すると、その日はぐんぐん上手くなり、そして数日で消えます。逆に、わざと混ぜて練習するとその日は下手に見えて、あとに残ります。
練習の並べ方には2つあります。同じことを連続でやる(ブロック)と、複数を混ぜてやる(ランダム)。
ブロックはその日の上達が速い。ランダムはその日は下手に見えるのに、1週間後に残っている。実測では、練習直後は78%対61%でブロックが勝ち、1週間後に64%対72%で逆転しました。
「できたのに翌週できない」が続いているなら、同じことばかり続けている可能性があります。試合は絶対に同じ順番で来ないからです。
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。監修コーチが、キックの練習で並べ方だけを変えて2つのグループを比べたことがあります。技術の内容も、合計の練習時間も、指導する人も同じ。変えたのは順番だけです。
結果は上に書いたとおりでした。その日いちばん褒めたのはブロック側のグループで、1週間後に残っていたのは混ぜたほうのグループでした。正直に言えば、測るまで逆だと思っていました。
01「できたのに、翌週できない」の正体
まず、この現象そのものを整理します。
3つとも、大人はこう解釈しがちです。「本人が本気でやっていない」「復習していないから忘れた」。
ですが、もう一つの読み方があります。その日の上達が、そもそも身についていなかったという読み方です。
同じことを10回続ければ、9回目・10回目はうまくいきます。直前の1回を、そのまま繰り返しているだけだからです。頭の中で毎回組み立て直していない。だから翌週、ゼロから組み立てる場面になると出てこない。その日の成功は、上達ではなく「直前のコピー」だった可能性があります。
02練習の並べ方は2つある
同じ内容でも、並べ方で性質が変わります。
インサイドキックを20分続ける。コーンドリブルを20分続ける。
良い点:フォームが固まりやすい。その日の伸びが目に見える。子どもが達成感を持てる
弱い点:数日で消えやすい。試合の形(毎回ちがう)と離れている
インサイド・アウトサイド・インステップを、順番を決めずに混ぜる。
良い点:あとに残りやすい。試合の形に近い
弱い点:その日は成功率が下がる。子どもが「できない」と感じやすい。大人も不安になる
やっかいなのは、弱い点のほうが目立つことです。ランダムにすると、その場では下手になります。見ている大人は「この練習は効いていない」と判断して、元に戻したくなる。
03実測|直後は78%対61%、1週間後は64%対72%
冒頭の比較を、条件から書きます。
Aグループ:インサイドキックだけを20分
Bグループ:インサイド/アウトサイド/インステップを5分ずつ回して20分
どちらも合計20分。指導者も、目標(3メートル先のゲートを通す)も同じ。
測ったのはインサイドキックの成功率だけです。
Bが1週間で上がっているのが、いちばん引っかかる点です。何も練習していないのに上がる。これは測定の誤差の範囲かもしれませんし、テスト自体に慣れた分かもしれません。そこは断定できません。
ただ、Aが大きく下がったことははっきりしていました。そして下がり方は、練習直後の伸びが大きかった子ほど大きい傾向がありました。
1つのチームで1回やった比較なので、これをもって結論とは言えません。ここで言えるのは「練習直後の成功率は、身についたかどうかの証拠にならない」という一点だけです。逆に言うと、その場の成功率を見て練習を評価するのは危ないということでもあります。
04なぜ、その場で下手なほうが後に残るのか
理屈はシンプルです。
インサイドの次にインステップが来ると、頭の中で組み立て直す必要が生まれます。足のどこで当てるか、軸足をどこに置くか、体をどう向けるか——毎回ゼロから呼び出す。
この「呼び出す作業」が、あとで同じことをやるときの取り出しやすさを作ります。
逆にブロック練習では、1回目に呼び出したものを2回目以降そのまま使えます。呼び出す作業が発生しないので、その日は速い。かわりに、呼び出す練習をしていません。
試合は、絶対に同じ順番で来ません。今インサイドで出したから次もインサイド、ということはない。試合で必要なのは「呼び出す力」のほうです。
だから、家の練習で成功率が下がることを恐れなくて大丈夫です。むしろ「その日ずっとうまくいく練習」が続いているなら、簡単すぎるか、並べ方が単調だというサインとして読めます。
05「判断つき練習」とは別の話です
混同されやすいので、線を引いておきます。
判断つきかどうか=相手がいるか、選ぶ場面があるか。練習の中身の話
ブロックかランダムか=同じことを続けるか混ぜるか。練習の並べ方の話
相手がいない反復でも、種類を混ぜればランダムになります。
逆に、相手がいる練習でも、同じ形を20分続ければブロックです。
両方そろっているのが理想ですが、家では相手を用意しにくい。そこで並べ方だけ先に変えるのが現実的です。人数も道具も増やさずにできて、効果は残るほうに向きます。判断つき練習のほうは、別記事で扱っています。
06家での混ぜ方・3つのルール
やみくもに混ぜると、ただ散らかった練習になります。守るルールは3つです。
013種類を1セットにして回す
種類は3つまで。たとえば「インサイドで通す/アウトサイドで通す/止めてから逆足で通す」。5回ずつで交代し、3周します。順番はサイコロや親の掛け声でその都度決めます。
02親が種類を宣言してから蹴らせる
子どもが構えたあとで、親が「インサイド!」「アウト!」と言います。子どもは言われてから足を選びます。順番を子どもに予測させないのが狙いです。
03やった内容を1行だけ書き残す
「今日:インサイド・アウト・逆足を混ぜた/通った数は少なめ」。1行で十分です。翌週は前回と違う組み合わせにします。
「混ぜたら明らかに下手になって不安でしたが、翌週に前回より上がっていて驚きました」
「「今日はよくできた」で終わる練習ばかりしていたと気づきました」
「親が種類を言ってから蹴らせる形にしたら、本人が「試合っぽい」と言いました」
「書き残すようにしたら、毎週同じことをやっていたのが分かりました」
3つ目のルールは、地味ですが効きます。書いていないと、人は無意識にうまくいったメニューを選び直します。記録があると、意識的に前回と違う組み合わせを選べるようになります。
△ここだけ注意:反省を書かせるためのものではありません。やった種類を1行だけ残すのが目的です。振り返りの文章を求めると続きません。使っていないノートの余りページでも同じことはできるので、必要になってからで構いません。
07混ぜてはいけないとき
最後に、例外を書いておきます。いつでも混ぜたほうがいいわけではありません。
判断の目安は「1回でもできたことがあるか」です。まだ一度もできていない動きは、続けて反復してまず1回できるようにする。1回できたら、そこから混ぜていく。
つまり順番があります。できるようにする段階はブロック、残す段階はランダム。ここを逆にすると、最初からできずに嫌になるか、できたつもりで消えていくかのどちらかになります。
08よくある質問
同じ練習を続けるのは、良くないのですか?
段階によります。まだ一度もできたことがない動きは、続けて反復したほうが早く最初の1回にたどり着けます。ただし1回できるようになった後もブロック練習だけを続けると、その日は上手くなるのに数日で消えます。できるようにする段階はブロック、残す段階はランダム、という順番で考えてください。
「できたのに翌週できない」のは、忘れているだけではないのですか?
忘れたというより、そもそも身についていなかった可能性があります。同じことを10回続ければ9回目・10回目は成功しますが、それは直前の1回を繰り返しているだけで、頭の中で毎回組み立て直していません。翌週ゼロから組み立てる場面になると出てこないのは、そのためです。
混ぜると下手になります。やめたほうがいいですか?
その場で下手に見えるのは、混ぜた練習の正常な反応です。実測では練習直後の成功率が78%対61%でブロックが上回り、1週間後には64%対72%で逆転しました。むしろ「その日ずっとうまくいく練習」が続いているなら、簡単すぎるか並べ方が単調というサインとして読めます。
何種類まで混ぜていいですか?
3種類までにしてください。4つ以上にすると、どれも中途半端になって形が崩れます。3種類を5回ずつで交代し、3周する形が回しやすい単位です。順番はサイコロや親の掛け声でその都度決め、子どもに予測させないほうが試合の形に近づきます。
相手がいる練習をすれば、混ぜる必要はないのでは?
別の軸なので、片方では代わりになりません。相手がいるかどうかは練習の中身の話、混ぜるかどうかは並べ方の話です。相手がいる練習でも同じ形を20分続ければブロックですし、相手がいない反復でも種類を混ぜればランダムになります。家では相手を用意しにくいので、並べ方だけ先に変えるのが現実的です。
低学年でも混ぜたほうがいいですか?
フォームが定まっていない段階では、混ぜると全部が崩れることがあります。低学年はまず1つの形で「1回できた」を作ってください。できるようになった動きが2つ3つとたまってきたら、そこから混ぜはじめます。ケガから戻った直後や、自信が落ちているときも、同じ形の繰り返しを優先してください。
相手や判断のある練習に変える方法は、こちらで扱っています → 練習ではできるのに試合でできない理由3つ 伸びが止まって見える時期の対応はプラトーと「飽き」の見分け方、記録の続け方はサッカーノート 小学生のテンプレートへ。
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
育成年代の指導3年目、延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断・認知・立ち位置を軸に「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。
用品・ルール・練習の記事は、公開前に監修コーチが内容を確認し、事実に関わる記述は一次情報にあたって整理しています。監修者について →

