試合中、お子さんの前にぽっかりスペースが空いた。相手は1人だけ。「行け、勝負!」と心の中で叫ぶ——のに、お子さんはすぐ横の味方にパスを出してしまう。安全なパス。責められないパス。でも、見ている親としてはちょっとだけ切ない瞬間です。ドリブルで抜く技術がないのか、それとも気持ちの問題なのか。実は多くの場合、足りないのはフェイントの技術ではなく「仕掛けていいんだ」という許可と、緩急(かんきゅう)というたった1つのコツです。この記事では、攻めの1対1で自信を持って仕掛けられるようになる練習を4つ、順番に紹介します。
1対1で抜けない子の原因は、①「取られたら怒られる」と思って仕掛けていない ②ずっと同じスピードでドリブルしている、の2つがほとんどです。処方せんは、まず親が「取られてもいいから勝負していい」と言葉で許可すること。技術は「ゆっくり近づいて、一気に速く」の緩急から。フェイントは1種類で足ります。
→ 仕掛けの一歩目を支える一足はこちら
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。忘れられない子がいます。技術はあるのに、3か月間ドリブルで仕掛けた回数がゼロだった子。理由を聞いたら「取られたら負けるから」と言いました。そこで試合前に「今日は取られてもいい。取られたらコーチの責任にしていいから、1回だけ勝負してみて」と伝えたんです。その試合、彼は5回仕掛けて2回抜きました。技術は前から持っていた。足りなかったのは許可だけだったんです。
01抜けない本当の理由は「技術」じゃない
コーチとして何十人も見てきて言えるのは、1対1で仕掛けない子の大半は、抜けないのではなく「抜こうとしていない」ということです。
理由ははっきりしています。ドリブルは、パスに比べて失敗が目立つから。取られれば自分のミスに見えるし、「早くパスしろ」という声が飛んでくることもある。子どもは賢いので、怒られない選択=パスを覚えます。そうして「仕掛けない子」が出来上がっていく。
「なんで取られるんだ」「無理せずパスしろ」——この2つを試合中に言われた子は、次から勝負しなくなります。取られた直後こそ「今の勝負は良かった」。結果ではなく、仕掛けたこと自体をほめてあげてください。挑戦の回数が増えれば、成功は後から必ずついてきます。
だから最初の練習は、ボールを使いません。今夜、お子さんにひとこと伝えるだけ。「取られてもいいから、1試合に1回は勝負してみて」。これが攻めの1対1の、本当のスタートラインです。
02抜くコツは緩急。フェイントは1個でいい
気持ちの準備ができたら、次は技術。といっても、動画で見るような足技を10個覚える必要はまったくありません。ジュニア年代の1対1で相手を抜く武器は、突きつめると緩急——つまり「ゆっくり」と「速い」の切り替えです。
守る側の気持ちになると分かります。ずっと全力で突っ込んでくるドリブルは、実は守りやすい。スピードが一定だからです。怖いのは、目の前でスッとゆっくりになって、こちらの足が止まった瞬間に一気に加速されること。相手の足が止まる、あるいは足を出してくる——その瞬間が「抜ける瞬間」です。守備側の視点は 1対1の守り方の記事 で詳しく書いていますが、守る側が一番嫌がるのがまさにこの緩急なんです。
フェイントは、シザース(またぎ)を1個だけ、ゆっくり確実にできれば十分。ここから、その2つを順番に練習にしていきます。
03スピードチェンジ
ペットボトルや靴を10mくらいの間に1個置き、スタートから目印まではゆっくりドリブル、目印を過ぎたら一気に全速力、を往復でくり返す。「ゆっくり」と「速い」の差を大げさにつけるのがすべて。
このドリルの目的は、足技ではなく「2つのギアを持つこと」。最初は切り替えのタイミングがワンテンポ遅れる子がほとんどです。それで大丈夫。目印を「相手」だと思って、「相手の手前で減速→横を通る瞬間に加速」のリズムが体に入れば、試合の抜き方はもう半分完成しています。
04またぎ1個だけ
止まったボールの上を、片足で外側からまたぐ(シザース)。またいだ足と逆側へ、足の外側でボールを押し出して加速する。まずはその場でゆっくり、形だけを覚える。
フェイントを何種類も練習させたくなりますが、試合で使えるのは体にしみ込んだ1個だけです。器用な子ほどあれこれ覚えて、どれも中途半端になりがち。「きみの必殺技はこれ」と1個に決めてあげると、試合で迷いなく出せるようになります。
05親を抜く1対1
親が守り役。最初の2本は「足を出さない置き物ディフェンス」、慣れたら少しずつ本気度を上げる。子どもは緩急またはまたぎを使って横を通り抜けたら勝ち。抜いたあと3タッチ以内に決めた場所(木やカバン)までボールを運べたら完璧。
大事なのは「抜いたあと」まで練習に入れること。試合では、抜いた直後にボールが足から離れて次の相手に取られる、というパターンがとても多いんです。抜く→運ぶ、までがワンセット。これを最初から癖にしておくと、試合でそのまま使えます。
0610本勝負
親子の1対1を10本やって、何回抜けたかを記録する。今日は3回、次は4回——と、記録を更新していくゲーム形式。守り役の本気度は「10本中2〜3回は抜かれる」くらいに調整する。
07よくある質問
うちの子はフェイントを知らないのですが、何から教えればいいですか?
フェイントより先に「緩急」からがおすすめです。ゆっくり近づいて一気に加速するスピードチェンジだけで、ジュニア年代の1対1はかなり抜けます。フェイントを足すならシザース(またぎ)を1種類だけ。何個も覚えるより、1個を試合で迷わず出せるほうが強いです。
試合になると仕掛けずにパスばかり選びます。
多くの場合、技術ではなく「取られたら怒られる」という気持ちが原因です。まず「取られてもいいから1試合1回は勝負してみよう」と言葉で許可を出してあげてください。そして取られたときこそ「今の勝負は良かった」と挑戦をほめること。仕掛けた回数を親子で数えるのも効果的です。
ドリブルで抜いたあと、すぐ取られてしまいます。
抜いた直後にボールが足から離れすぎているか、抜いたあと減速してしまっているのが典型です。練習の段階から「抜く→3タッチ以内に決めた場所まで運ぶ」をワンセットにしましょう。抜いた瞬間が一番スピードに乗るべき場面、と体で覚えると変わります。
足が速くない子でも1対1で抜けますか?
抜けます。1対1で効くのは最高速度ではなく「速さの差」だからです。ゆっくりからの加速なら、足が速くない子でも相手の一歩目を置き去りにできます。むしろスピード自慢の子ほど緩急を使わず突っ込んで取られがちで、緩急を覚えた子のほうが安定して抜けるようになります。
守備の1対1も一緒に練習したほうがいいですか?
おすすめです。守備を経験すると「守る側が何をされたら嫌か」が分かり、攻めの駆け引きが一段うまくなります。親子練習で攻守を交代しながらやると、両方が同時に伸びます。守り方のコツと練習は別記事(1対1の守り方)で詳しく解説しています。
最後に、今夜の一手です。練習メニューを始める前に、まず夕食のときに「次の試合、取られてもいいから1回だけ勝負してみて」と伝えてみてください。道具も場所もいらない、でも一番効く一手です。守る側の駆け引きは 1対1の守り方と親子ドリル を、抜く武器を増やしたくなったら フェイントの覚え方 をどうぞ。
そして、緩急の一歩目は足元がすべると台無しです。急加速で踏ん張れる、足に合った一足を選びたい方は → 学年・足型からピッタリを選ぶ比較ランキング へ。
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
少年サッカーの育成年代を指導して3年目、これまで延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断力・認知・立ち位置・パススピード・切り替え、GKからのビルドアップを軸に、「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。毎月、練習設計と自己内省をレポートにまとめてPDCAを回す、分析型の指導者です。
現場でサッカー未経験の保護者の声を大切にしてきました。専門用語をゼロに噛み砕き、「親が今日からできること」に翻訳してお届けします。
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