グラウンドの端から、お子さんの声が聞こえてきます。「パス!」「パス!」「パースー!」。声は出ている。やる気もある。でもボールは来ない。来たと思ったら、後ろを向いたまま受けて、すぐ相手に囲まれてしまう——。「声を出せ」とはよく言われるけれど、何を言えばいいのか、どう準備して受ければいいのかは、実はほとんど教わりません。この記事では、「パス!」しか言えない子が次の一歩に進むための、もらう前の準備・体の向き・声のバリエーションを、家でできる練習と一緒に紹介します。
パスをもらえない・もらってもすぐ失う子に効くのは、①もらう前に首を振って後ろを見る(チラ見) ②体を斜め(半身)にして受ける ③声を「パス!」から「どこに欲しいか」に変える(「足元!」「前!」「戻し!」)の3つ。全部、家の廊下と公園で練習できます。
→ 受けてからの一歩目を支える一足はこちら
この記事は、少年サッカーの現場に立つ現役のU10・8人制コーチが監修しています。うちのチームに、試合中「パス!」の一言しか言わない子がいました。声は大きいのに、味方はどこに出せばいいか分からない。そこで練習中、声のメニューを「名前を呼ぶ」「欲しい場所を言う」の2段階に分けて渡したんです。最初の2週間は「〇〇、足元!」がやっと。1か月で「前!」が出て、2か月たったある試合、逆サイドがガラ空きなのを見て「逆!」と叫んだ。ボールにさわっていない子の声で攻撃が変わった瞬間で、ベンチで鳥肌が立ちました。声は、才能ではなく語彙(ボキャブラリー)なんです。
01「パス!」だけではもらえない理由
出す側の気持ちになってみると、すぐ分かります。「パス!」と言われても、足元に出せばいいのか、前のスペースに出せばいいのか分からない。分からないパスは、出す側にとってリスクです。だから上手な子ほど、要求のあいまいな味方には出しません。
もうひとつの理由は、もらう前の準備です。ボールばかり見て、自分の後ろに相手が来ているのを知らない子には、味方は怖くて出せない。つまり「もらえない」は、声の中身と、もらう前の準備、この2つで大部分が説明できてしまうんです。
声出しの練習というと、つい「もっと大きく!」になりがちです。でも味方が知りたいのは音量ではなく情報。小さくても「戻し!」の一言のほうが、絶叫の「パス!」より百倍役に立ちます。この記事で増やすのは、声の大きさではなく声の種類です。
02もらう前の準備①チラ見(首振り)
上手な選手は、ボールが来る前に何度も首を振って、まわりを見ています。これを難しく「認知」なんて呼びますが、子どもに伝えるなら「チラ見」で十分。ボールが移動している間に、自分の後ろと横をチラッと見ておく。たったこれだけで、受けたあとの落ち着きがまるで変わります。
なぜなら、後ろに相手がいないと知っていれば、安心して前を向けるから。逆に相手が来ていると知っていれば、最初から味方に返す準備ができる。受ける前に答えを知っている子は、慌てません。
03もらう前の準備②体の向き(半身)
もうひとつの準備が、体の向きです。ボールの出し手に体を真正面に向けて受けると、視界には出し手しか入りません。受けた瞬間、背中側は真っ暗。だから、体を斜め45度に開いて、出し手とゴール方向の両方が見える向きで受ける。これを半身(はんみ)と言います。
体の向きをひとつ変えるだけで、「後ろを向いて受けて、囲まれて、下げる」が「前を向いて受けて、運べる」に変わります。地味ですが、ジュニア年代でいちばん差がつく準備です。なお、ボールから離れた場所でのポジションの取り方(動き出し)は オフザボールの動きの記事 で扱っているので、この記事は「もらう直前」に絞ります。
04数字チラ見トラップ
親子で5mほど離れてパス交換。親はパスを出す直前、逆の手で数字(1〜5)を指で出す。子はボールが転がってくる間にチラ見して、トラップしながら数字を答える。
05半身レシーブ
地面にテープや小枝で「進みたい方向」の矢印を作る。親が転がすボールを、体を斜め45度に開いたまま、遠いほうの足(矢印側の足)でトラップして、矢印の方向へ1歩運ぶ。
06声の3語ゲーム
子が受け手、親が出し手。子は毎回、パスを呼ぶ前に「足元!」「前!」「戻し!」のどれかを宣言してから受ける。「足元」なら足元へ、「前」なら少し前のスペースへ、親は宣言どおりの場所に転がす。宣言と違う場所に走ったらやり直し。
3語が自然に出るようになったら、その先は「〇〇(名前)、前!」のように名前+場所のセットへ。誰に言っているかが伝わるだけで、パスが来る確率は目に見えて上がります。「逆!」(逆サイドへ展開)のような一段上の声は、この積み重ねの先に自然に出てきます。焦らなくて大丈夫。
「『パスって言うな、どこに欲しいか言え』とコーチに言われて意味が分からなかったけど、この3語ゲームで納得。家の廊下でやってます」
「チラ見の練習を始めてから、試合で慌てて蹴っちゃう場面が減った気がします。受ける前に見てるのが親にも分かる」
「声が小さいのを心配してたけど、『大きさより中身』と聞いて肩の力が抜けた。小さい声でも『戻し』が言えたら味方が反応してた」
07よくある質問
そもそも声を出すのを恥ずかしがります。どうすれば?
いきなり試合で出させようとせず、家の練習で「宣言してから受ける」を癖にするのが近道です。練習で百回言った言葉は、試合でも自然に出ます。また「大きい声」を求めないこと。小さくても情報のある一言(足元・前・戻し)が言えたら十分、とハードルを下げてあげてください。
「パス!」以外に、まず何を言えるようになればいいですか?
最初の3語は「足元!」「前!」「戻し!」がおすすめです。足元=自分の足元に欲しい、前=少し前のスペースに欲しい、戻し=後ろの自分に預けて、の3つで、試合の要求の大半がまかなえます。慣れたら名前とセットで「〇〇、前!」と言えるようになると、パスが来る確率が一気に上がります。
首を振れと言われても、何を見ればいいのか分からないようです。
見るものを1つに絞ってあげましょう。最初は「自分の後ろに相手がいるか、いないか」だけで十分です。いなければ前を向く、いれば返す。この2択がチラ見の目的です。記事の「数字チラ見トラップ」のように、見る対象をゲームにすると、見る習慣そのものが楽しく身につきます。
トラップすると相手のいる方に止めてしまいます。
体の向きがボールに正対している可能性が高いです。斜め45度に開いて、進みたい方向と反対側ではなく「遠いほうの足」で止める練習(半身レシーブ)を試してください。止める前から進む方向が決まっているので、トラップが自然と安全な側に置けるようになります。
動き出しやポジショニングはどう教えればいいですか?
この記事は「もらう直前」の準備(チラ見・体の向き・声)に絞っています。相手から離れる動き直しや、パスコースを作る立ち位置といった「もらう前の動き」は、オフザボールの記事で段階的に解説しているので、そちらとセットで読むのがおすすめです。
今夜の一手はこれです。お風呂上がりの廊下で、数字チラ見トラップを10回だけ。ボールがなければ、丸めた靴下でもできます。「見てから受ける」が始まった子は、そこから全部が変わっていきます。
動き出しの側からもらい方を鍛えるなら オフザボールの動き を、受けたあとのパスの質を上げるなら インサイドキックの蹴り方 をどうぞ。半身で受けて一歩目で運ぶ動きは、足元がすべると台無しになります。学年・足型から合う一足を探すなら → スパイク比較ランキング へ。
「サッカーが上手い選手より、サッカーを通じて“かっこいい大人”を育てる」
少年サッカーの育成年代を指導して3年目、これまで延べ50名ほどの子どもたちと向き合ってきた現役コーチ。判断力・認知・立ち位置・パススピード・切り替え、GKからのビルドアップを軸に、「個の前進力」と「戦術理解」の両立を追求しています。毎月、練習設計と自己内省をレポートにまとめてPDCAを回す、分析型の指導者です。
現場でサッカー未経験の保護者の声を大切にしてきました。専門用語をゼロに噛み砕き、「親が今日からできること」に翻訳してお届けします。
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